ⓔコラム10-15-5 先天性囊胞 (congenital cyst)

 先天性囊胞には気管支囊胞 (bronchogenic cyst),食道囊胞 (esophageal cyst),胸腺囊胞 (thymic cyst),心膜囊胞 (pericardial cyst) などがあるが,これらは真の腫瘍ではなく先天性奇形である.

気管支囊胞・食道囊胞

 発生については,胎生期に前腸から食道や気管に分化する過程における空胞の癒合不全によるとする説が有力である.気管支原性囊胞は単房性で右傍気管や気管分岐部に多く認められるが,通常は気道の交通はない.囊胞壁は多列線毛上皮で覆われ,軟骨,平滑筋,気管支腺を有しており,内部に分泌物の貯留が認められることが多い1).食道囊胞は2層の平滑筋と消化管上皮をもち,食道壁と癒着していることが特徴とされる2).気管支原性囊胞や食道囊胞は感染や悪性化のリスクがあるため,外科的切除術が行われる.

心膜囊胞

 多くは無症状で経過し,健診などで偶発的に発見されることが多い.発生部位は右心横隔膜角部が多く,左心横隔膜角部や右上縦隔での発生も認める3).CT,MRI,超音波などの画像診断での診断も可能であるが,確定診断には超音波ガイド下やCTガイド下の穿刺吸引が考慮される.無症状の心膜囊胞は経過観察の方針となることが多いが,一部で悪性転化する報告もあり,増大傾向を示す腫瘍や症状を伴う症例は外科的切除術が行われる.

胸腺囊胞

 単房性と多房性に分類され,単房性のものは,胎生期の第3鰓 (さい) 囊由来の胸腺咽頭管の遺残による先天性と考えられている4).一方,多房性の胸腺囊胞は炎症性や腫瘍性などの後天的に生じることが多い.また,悪性化も報告されており5),外科的切除が望ましいとされる.

〔谷村恵子・髙山浩一〕

■文献

  1. Arbona JL, Fazzi JG, et al: Congenital esophageal cysts: case report and review of literature. Am J Gastroenterol, 1984; 79: 177–182.

  2. ABELL MR: Mediastinal cysts. Arch Pathol, 1956; 61: 360–379.

  3. 藤本武利,伴場次郎,他:心膜憩室の一切除例及び本邦報告例の統計的検討.日本胸部外科学会雑誌,1983; 31: 2181–2187.

  4. Krech WG, Storey CF, et al: Thymic cysts; a review of the literature and report of two cases. J Thorac Cardiovasc Surg, 1954; 27: 477–493.

  5. Leong AS, Brown JH: Malignant transformation in a thymic cyst. Am J Surg Pathol, 1984; 8: 471–475.