ⓔコラム10-5-4 石綿に関する補足

石綿と石綿関連肺疾患

 石綿とは天然に産出される線維状の珪酸塩鉱物の総称であり,蛇紋石系および角閃石系に大別される (表1).わが国で使用された代表的な石綿はクリソタイル,クロシドライト,アモサイトの3種類である.2006年より,石綿および石綿をその重量の0.1%をこえて含有するすべての物の製造,輸入,譲渡,提供,使用が禁止された1)

表1 石綿の種類.

 石綿曝露と関連する肺疾患として,石綿肺のほか,中皮腫,肺癌,良性石綿胸水,びまん性胸膜肥厚が知られている.このうち,中皮腫,石綿肺は石綿曝露の特異性が高い.また,胸膜プラーク (胸膜肥厚 (ひこう) 斑) も石綿曝露の特異性が高い所見である.

 それぞれの石綿関連肺疾患における石綿粉じん曝露量と潜伏期間の関係を図1に示す.

図1 石綿粉じんの曝露量と潜伏期間の関係 (Bohlig H, Otto H, et al: Asbest und Mesotheliom. Georg Thieme Verlag (Stuttgart), 1975; 1–52より作成).

石綿健康被害救済給付

 石綿による健康被害は労働によって発症したときは労災補償の対象となるが,その対象外である労働者の家族や作業場の周辺住民の石綿による健康被害の迅速な救済をはかるため,被害者およびその遺族に対し医療費などの救済給付を支給する「石綿による健康被害の救済に関する法律」が2006年に施行された.対象となる疾患は中皮腫,肺癌,著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺,著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚であり,それぞれの認定にかかわる医学的判定の考え方は次のとおりである2)

ⅰ) 中皮腫: 中皮腫の診断の確からしさが担保されれば (基本的には病理組織診断によるが,細胞診が実施されておりその他の所見と総合的に中皮腫と判断できる場合あり),石綿曝露の証明は必要ない.

ⅱ) 肺癌: 表2の①および②を満たす場合,「石綿による肺癌」と認められる.

表2 石綿による肺癌の認定要件.

ⅲ) 著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺,著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚: 石綿肺では,次の①~④すべてを満たす場合,「著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺」と認められる.①大量の石綿曝露があること,②胸部単純X線画像で,じん肺法に定める第1型以上と同様の肺線維化所見があること,③著しい呼吸機能障害があること,④他疾患との鑑別ができること.

 びまん性胸膜肥厚では,次の①~④すべてを満たす場合,「著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚」と認められる.①大量の石綿曝露 (石綿曝露作業への従事期間がおおむね3年以上) があること,②臓側胸膜に一定以上肥厚の広がりがあること (胸部単純X線画像上に,片側のみ肥厚がある場合→頭尾方向に側胸壁の1/2以上,両側に肥厚がある場合→頭尾方向に側胸壁の1/4以上),③著しい呼吸機能障害があること,④他疾患との鑑別ができること.

 なお,石綿肺とびまん性胸膜肥厚における著しい呼吸機能障害の有無は,下記 (1)~(3) のいずれかの場合,著しい機能障害と判定される.(1)%肺活量 (%VC) が60%未満であること,(2)%VCが60%以上80%未満であって,1秒率が70%未満であり,かつ,%1秒量が50%未満であること,(3)%VCが60%以上80%未満であって,動脈血酸素分圧 (PaO2) が60 Torr以下であること,または,肺胞気動脈血酸素分圧較差 (A–aDO2) の著しい開大がみられること.

〔石井幸雄〕

■文献

  1. 厚生労働省:アスベスト全面禁止.https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/sekimen/hourei/dl/hou07-281c.pdf

  2. 独立行政法人環境再生保全機構:アスベスト(石綿)健康被害救済給付の概要.https://www.erca.go.jp/asbestos/relief/