ⓔコラム11-3-14 胃静脈瘤の内視鏡治療 (CA法,CA・EO併用法)
出血例に対するCA法 (αCA法,HA法)
出血性ショック例では,まずショック対策 (急速輸液・輸血,気道確保および酸素吸入など) を優先し,呼吸状態の管理と尿量や中心静脈圧をモニターし,出血量の推定および重症度の判定を行い適切な処置を講じる.呼吸循環系が安定した後,直ちに緊急内視鏡を行う.緊急内視鏡で胃静脈瘤出血なら,止血用胃バルーンで圧迫止血をしながら透視室に移動し,X線透視下でCA法を行う.しかし,その余裕がない場合は内視鏡室で非透視下CA法にて一時止血を行う.CAは油性造影剤であるリピオドールⓇと混合,希釈して用いる.希釈濃度は大循環への流出の危険性と穿刺針内の通過性の検討から,HAは70~80%,αCAは62.5~75%がよいとされている.当院では出血例には75%αCAを用いていたが,2013年10月にHAが薬事承認されてからはHAを使用している (αCAは薬事承認されていない).2.5 mLシリンジにリピオドールⓇ 0.6 mLを吸引後,HA 1.8 mLを吸引し75%HA 2.4 mLを作成し,注入時まで十分混和する.内視鏡挿入後,胃静脈瘤の形態と出血点を確認する.静脈瘤穿刺直前に仰臥位とし,20 Gまたは21 G穿刺針を用いて出血点近傍に穿刺する.血液逆流を確認し穿刺針内の血液を造影剤でフラッシュ後,75%HA 2.4 mLを一気に注入すると瞬時に止血される.なお,大量の凝血塊が貯留して視野不良の場合は右側臥位 (そくがい) で頭高位の体位変換を行うと,凝血塊が前庭部側に移動し視野を確保することができる.HA注入後はX線透視で胃静脈瘤の注入範囲を確認する.HA法で止血後は全身状態がよければ,引き続き胃静脈瘤と供血路閉塞の治療を行う.すなわち血流が速く胃静脈瘤が造影されなければHAを注入し,供血路が造影されればEOを用いて供血路を閉塞するHA・EO併用法 (以前はαCA・EO併用法1,2)) を行い,1回の治療で終了とする.
待期・予防例に対するHA・EO併用法
ⅰ) HA・EO併用法の実際: HA・EO併用法は胃静脈瘤をHA法で置換し,供血路をEO法で閉塞する方法である (ⓔ図11-3-18).EUSによる胃静脈瘤径から適切なHA濃度 (62.5%,75%) や治療手技を選択することが重要である.胃静脈瘤のなかで隆起の目立つ部位から順次穿刺する.数回のHA注入で胃静脈瘤を閉塞後は供血路側の穿刺を試み,造影剤による供血路造影が良好ならEOを注入し供血路の閉塞をはかる.治療効果判定は1週後にEUSと3D–CTを行い,胃静脈瘤が残存しているなら追加治療を行う.この際,胃静脈瘤径3 mm未満では血管内注入が困難なことが多く,AS法により細静脈瘤の消失をはかる.
HAの注入量や濃度によっては大循環へ流出し,肺塞栓,脳塞栓,門脈閉塞などの可能性があり,大きな静脈瘤ほどその危険性が増す.HAの1回注入量は2 mL以内とし,HA濃度は胃静脈瘤径から適切な濃度 (リピオドールⓇと混合) を選択する (ⓔ図11-3-19).静脈瘤径が5 mm未満の場合は,まず造影剤のみで静脈瘤造影を行い,そこで造影良好ならEOに代えて供血路までEOを十分に注入する.造影不良なら無水エタノール (ET) 1 mLを注入し,1分間そのままで待ってから再度造影して造影濃度をみる.それでも造影不良なら同様にET 1 mLをさらに追加し同様の操作を繰り返す (ET総量3 mLを限度とする).造影良好になればEOに代えて供血路まで注入する.それでも造影不良なら62.5%HAを用いて治療する.また,最初に造影した際に,胃静脈瘤の血流量が多く,まったく造影されない場合は,はじめから62.5%HAで治療することを選択する.静脈瘤径が5 mm以上12 mm未満では75.0%HAを選択する.さらに12 mm以上ではHAが大循環へ流出する危険性があり,それを防止するために腎静脈系短絡路閉塞下HA法 (ⓔ図11-3-20) を選択する.本法は,腎静脈系短絡路をB–RTO用バルーンカテーテルで閉塞し,内視鏡的に75%HAを注入する手技であり,HAの大循環への流出を防止できる.また,注入時にHAが穿刺カテーテル内で固まった場合,抜針時に大量出血をきたすことがある.リピオドールⓇとHAの混合液を作成する際に,空気を混入させないこと,作成後はできるだけ早期に注入することが大切である.
ⅱ) HA・CA併用法の有用性: 胃静脈瘤出血例に対するCA法の止血率は90数%と良好である.また,αCA・EO併用法後の累積再発率は10年で16.7%と低く3),きわめて有用な治療法である.再発の早期発見には1年ごとの内視鏡およびEUSによる定期的な観察が大切である.
〔小原勝敏〕
■文献
小原勝敏,大平弘正,他:孤立性胃静脈瘤に対するα–cyanoacrylate monomerによる硬化療法の有用性について.Gastroenterol Endosc, 1989; 31: 3209–3216.
小原勝敏:胃・食道静脈瘤の治療法,門脈血行動態の把握に基づいた治療法-硬化療法.Mebio, 2002; 19: 8–15.
小原勝敏:胃静脈瘤に対する内視鏡治療.画像で学ぶ静脈瘤治療-EIS/CA法,編集室なるにあ,2013; 47–71.