ⓔコラム11-4-2 ROMEⅠ~Ⅳ,日本消化器病学会での定義
ROMEⅠでFDは,「慢性または反復性の上腹部を中心とする腹痛または腹部不快感が1カ月以上続き (そのうちの25%以上に症状がある),症状の原因となる器質的疾患がなく,胃腸の手術や消化性潰瘍の既往がないもの」と定義されている.NUDと異なり,胸やけはFDの症状のなかには含まれていない.
1999年のROMEⅡでは,「症状の原因となる器質的疾患がなく,持続性または反復性のディスペプシア (上腹部を中心とする痛みまたは不快感) が,過去12カ月の間に少なくとも12週間存在し,かつ,排便によって症状が改善することもなく,症状が便回数や便形状の変化によって変わらない」と定義された1).ROMEⅡでも,胸やけはFDの症状のなかに含まれてはいない.胸やけ症状がしばしばある場合は,胃食道逆流症 (gastroesophageal reflux disease: GERD) に含むべきであると明記されている.
2006年のROMEⅢでは,その定義は2つのレベルで定義されている.1つは実用的な定義で,「症状の原因となるような器質的,全身性,代謝性の疾患がないにもかかわらず,胃十二指腸に由来すると思われる症状が生じている状態」,そして,もう1つは研究用のより対象を限定した定義で,「器質的疾患がないにもかかわらず,つらいと感じる食後のもたれ感,早期飽満感,心窩部痛,心窩部灼熱感の4項目のうち1つ以上があり,初発症状は6カ月以上前にみられ,最近3カ月間は上記の基準を満たすこと」である2).さらにつらいと感じる食後のもたれ感または早期飽満感を主症状とする食後愁訴症候群 (postprandial distress syndrome: PDS),そして心窩部痛または心窩部灼熱感を主症状とする心窩部痛症候群 (epigastric pain syndrome: EPS) の2つの亜分類が定義された.ROMEⅢでは,頻回かつ典型的な逆流症状がある場合はGERDと診断することを勧めているが,ROMEⅡと異なり,胸やけ症状や過敏性腸症候群 (irritable bowel syndrome: IBS) 症状がある場合でも定義を満たせばFDと診断することができる.
ROMEⅣはROMEⅢの改訂版であり,FDに関してはわずかな変更のみであった.ROMEⅢでは実用的な定義についての記載があったが,ROMEⅣにはその記載がなくなった.また,ROMEⅢでは食後のもたれ感のみに”つらいと感じる”(原文はbothersome) という言葉があったが,残りの3症状に対しても”つらいと感じる”が付加され,その症状がQOLを損なうかどうかを重視したものとなった.
日本では,日本消化器病学会より2014年に「機能性消化管疾患診療ガイドライン2014-機能性ディスペプシア (FD) 」が刊行され,2021年に改訂第2版が刊行された3).これらのガイドラインでは,症状が現れた場合6カ月を待たずに受診するなどの日本人の実情に合わせて,罹病期間を限定せずに,症状に関してもROMEⅢの実用的な定義に準じて,FDは「症状の原因となる器質的,全身性,代謝性疾患がないのにもかかわらず,慢性的に心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患」と定義された.
〔北條麻理子・永原章仁〕
■文献
Talley NJ, Stanghellini V, et al: Functional gastroduodenal disorders. Gut, 1999; 45: II37–II42.
Tack J, Talley NJ, et al: Functional gastroduodenal disorders. Gastroenterol, 2006; 130: 1466–1479.
日本消化器病学会編:機能性消化管疾患診療ガイドライン2021改訂第2版-機能性ディスペプシア (FD),南江堂,2021.