ⓔコラム12-1-10 門脈肺高血圧症1,2)

 門脈肺高血圧症 (portopulmonary hypertension: POPH) は,門脈圧亢進症に伴う肺動脈性肺高血圧症であり,門脈圧亢進症の2~9%に合併する.病理所見では,肺動脈の血管内皮細胞の増殖と平滑筋細胞の肥大,内部の血栓形成が認められる.2004年に改訂されたヨーロッパ呼吸器学会の診断基準は,門脈圧亢進症の患者で,右心カテーテル検査所見で,平均肺動脈圧が25 mmHg以上,肺血管抵抗が240 dyne/sec/cm-5以上,肺動脈楔入圧が15 mmHg未満と定めている2).POPHの病態生理は十分には解明されていないが,門脈圧亢進症患者では,短絡路や全身血管の拡張により心拍出量の増加を伴うhyperdynamic stateにあるため,肺血管床を通過する血流量が増加して肺血管へのshear stressが増加し,肺動脈内膜肥厚,肺動脈のリモデリングを生じ,肺動脈の閉塞や狭窄をきたし,肺血管抵抗が増加し,その部位に微小血栓が生じることでPOPHを生じると考えられている1).また,肝疾患によるシャントの形成,肝代謝の低下により,正常であれば代謝される炎症性サイトカインやエンドトキシン,セロトニンなどが代謝されずに肺循環に流入し,肺血管の炎症を惹起し,血管内皮細胞の障害や肺血管の収縮を生じる機序も考えられている.POPHの予後は不良であり,未治療時の5年生存率は14%である.治療は主として対症療法であり,利尿薬や血管拡張薬,酸素療法が行われる.ホスホジエステラーゼ–5阻害薬,エンドセリン受容体拮抗薬,PGI2製剤が有効との報告もある.肝移植の死亡率は非常に高く,平均肺動脈圧が35 mmHg以上の場合,周術期死亡率は50%をこえる.

〔坂井田 功〕

■文献

  1. 日本循環器学会,日本肺高血圧・肺循環学会,他:門脈圧亢進症に伴う肺動脈性肺高血圧症 (PoPH).肺高血圧症治療ガイドライン (2017年改訂版),2017; 42–44.

  2. Rodriguez-Roisin R, Krowka M, et al: Pulmonary-hepatic vascular disorder (PHD) Eur Respir J, 2004; 24: 861–880.