ⓔコラム12-1-9 門脈圧亢進症 (肝硬変) における腹水発現機序1–3)

図1 門脈圧亢進症 (肝硬変) における腹水発現機序.

 肝硬変における腹水の発生には,門脈圧亢進による類洞内圧の上昇による肝リンパ液産生亢進,蛋白合成障害に基づく低アルブミン血症による膠質浸透圧の低下,RAA系の活性化,交感神経活性化,抗利尿ホルモン分泌増加などによるナトリウムと水の再吸収亢進,全身循環亢進状態などが関与している (図1)1,2)

 肝硬変では,肝類洞内圧上昇により,肝リンパ液の産生が増加する.また,蛋白合成能の低下による低アルブミン血症は,血漿膠質浸透圧の低下を介して,水を血管内から間質へ移動させるため,腹水を貯留させ,有効循環血液量を減少させる.

 一方,肝硬変では,門脈圧亢進症による腸管浮腫,腸管蠕動低下による小腸内細菌異常増殖 (small intestinal bacterial overgrowth: SIBO) やdysbiosis (腸内細菌叢を構成する細菌種や細菌数が減少し,細菌叢の多様性が低下した状態) が生じ,bacterial translocation (腸管細菌が腸管のバリアをこえて腸管外組織に移行する病態) が起こりやすくなっている3).さらに,腸管由来のエンドトキシンを処理するKupffer細胞の機能低下や側副血行路の発達により,エンドトキシン血症を容易に合併する.エンドトキシンやサイトカインは,内皮細胞に作用して,血管拡張物質である一酸化炭素 (nitric oxide: NO) の産生を亢進させ,血管を弛緩させる.また,PGI2,一酸化炭素,エンドカンナビノイドなどの血管拡張物質の産生も亢進する.その結果,内臓領域の動脈拡張,全身の血管抵抗の低下が惹起され,心拍出量が増加し,いわゆる全身の循環亢進状態 (systemic hyperdynamic circulation) が生じ,結果として有効循環血流量は低下する.

 有効循環血液量の低下により,代償性にレニン–アンジオテンシン–アルドステロン (RAA) 系,交感神経系,抗利尿ホルモン (バソプレシン) などの血管収縮系が活性化されるが,これらの代償機構の過剰な持続は,ナトリウムと水の貯留傾向を生み,腹水貯留に作用する.

 肝硬変の初期にはこの状態が維持されるが,やがて代償不全を起こし,有効循環血液量が維持できなくなる.腎臓における有効循環血液量の減少や交感神経やRAA系活性化による腎血管収縮は,肝腎症候群を引き起こす.

〔坂井田 功〕

■文献

  1. 瀬川 誠,坂井田 功,他:門脈圧亢進症の病態,プリンシプル消化器疾患の臨床 ここまできた肝臓病診療.中山書店,2017; 79–83.

  2. 福井 博:肝硬変腹水の病態と治療−最近の進歩.肝臓,1999: 40: 113–127.

  3. Fukui H, Wiest R: Changes of intestinal functions in liver cirrhosis. Inflamm Intest Dis, 2016: 1: 24–40.