ⓔコラム12-18-1 Fontan関連肝疾患
概念
Fontan手術は三尖弁閉鎖症,単心室症,左心低形成症候群など,機能的な単心室血行動態を伴う複雑な先天性心疾患に対して行われる最終的な緩和処置である1).具体的には体循環からの静脈血を直接肺動脈に導く機能的修復術であり,肺循環は体静脈圧の上昇によって維持される.Fontan手術の成績は向上しているが,長期経過において,不整脈,チアノーゼ,血栓塞栓症,蛋白漏出性胃腸症,心不全,肺高血圧,肝硬変,肝癌,腎不全など全身の臓器不全をきたし,Fontan術後症候群とよばれている.特に肝合併症はFontan関連肝疾患 (Fontan associated liver disease: FALD) とよばれ,肝硬変や肝細胞癌などの原因とされる.
頻度
Pundiらは195例の初回Fontan術後患者を調査し,肝組織や画像所見から,40例 (21%) が肝硬変であったと報告している2).またLindsayらはFontan術後約18年の経過観察で53例中29例 (55%) が肝硬変であったと報告している3).TéllezらはFontan術後患者152例を前向きに観察し,術後平均18年で,超音波検査にて29.6%,MRI/CT検査で47.7%に肝内結節を認め,多血性でwash outを示す結節を有する8例中2例で組織学的に肝細胞癌と診断されたと報告している4).
病態生理
Fontan循環は高い中心静脈圧 (central venous pressure: CVP) と低心拍出量,軽度だが有意に低い動脈酸素分圧を特徴とする5).Fontan術後は慢性的なCVP上昇に伴い下大静脈,肝静脈がうっ血し,類洞圧の上昇や拡張がみられ,小葉中心肝細胞の類洞周囲の浮腫と低酸素症が引き起こされる.その結果,Disse腔への濾過過剰状態や機械的刺激が生じ,肝類洞内皮細胞の表現型が変化し,トランスフォーミング増殖因子 (transforming growth factor: TGF)–βなどのサイトカインが分泌され,肝星細胞および線維芽細胞の活性化が促される6).また,肝臓直下の下大静脈を結紮して作成したうっ血肝モデルマウスにおいて,類洞の機械的な拡張は類洞内に血栓形成をもたらし,線維化進展に関与しているとされる7).したがって,肝うっ血による類洞の拡張といった機械的刺激や,血栓形成,虚血などに加え,肝細胞への酸素供給の低下により肝類洞の線維化が促進され,肝硬変に進展すると考えられる.
病理
病理組織学的に門脈域には炎症を伴わない線維化を認め,類洞の拡張,小葉中心性出血性壊死や,類洞周囲線維化,細胆管反応,細静脈周囲の線維性隔壁,隔壁中心静脈の架橋形成,結節性再生性過形成などがみられる6).
検査所見・診断
FALD患者において,肝疾患は偶然発見され,疾患が進行するまで無症状であることが多い.現在のところFALDの診断とスクリーニング法は確立されておらず,ほかの肝疾患と同様に臨床所見,検査データ,画像所見や組織学的所見などから総合的に評価する必要がある.ただし,FALDはほかの原因による慢性肝障害と異なり,炎症を伴わない肝線維化が基本的な病態であるため,トランスアミナーゼなどの一般的な肝機能検査では異常がみられないことが多い.血小板数低下 (<15万/µL) は,脾機能亢進を表し,門脈圧亢進症を示唆するが,Fontan循環では,軽度の血小板減少症があるため,血小板数の経時的な変化をみる必要がある8,9).また,無脾症候群の合併例では血小板数による評価は困難である.血清アルブミン値の低下やプロトロンビン時間の延長は,肝予備能低下を反映しFALDの評価に有用である.しかしながら,蛋白漏出性胃腸症合併例ではアルブミン損失を反映している可能性があり,抗凝固薬服用例ではプロトロンビン時間は延長しており,FALD評価は不能である.血清クレアチニンとビリルビンによるModel for End Stage Liver Disease excluding INR (MELD–XI) がFALD患者の肝線維化の程度に相関するとされるが,FALD診断のカットオフ値は定義されていない6,10).またⅣ型コラーゲン,ヒアルロン酸,プロコラーゲン–Ⅲ–ペプチド (P–Ⅲ–P) などの線維化マーカーはFALDで上昇していることが多いが,肝硬変と非肝硬変の鑑別は困難である.
腹部超音波検査では肝表面の凹凸,辺縁の状態,肝静脈の拡張,占拠性病変や腹水,脾腫の有無にて肝硬変の有無や予備能,腫瘍の存在を評価できる.超音波やMRIを用いた肝硬度測定はうっ血の影響を受けるため,組織学的検討と比較して正確性に欠ける.
肝生検は線維化診断のゴールドスタンダードであるが,肝静脈圧が高く,また抗凝固療法中の症例も多いため,出血のリスクが高い.血液検査や画像検査で臨床的肝硬変および顕著な門脈圧亢進症 (脾腫,食道静脈瘤,および血小板減少症) を示唆する所見がある場合,生検は必須ではない.画像検査や血液検査からほかの肝疾患の合併が疑われる場合,臨床的に肝硬変の明確な根拠がない場合,および肝疾患の進行度を判断することが治療方針決定やサーベイランスの助けになる場合に有用である11).
肝硬変例では肝癌早期発見のための定期的スクリーニングが重要である.肝内結節は術後10年後以降に末梢性に高エコー結節として描出されることが多いが4),見落としも多いため,造影CTやMRI検査での評価も重要である.多血性腫瘍も多く,診断には組織検査も必要である4).肝細胞癌のスクリーニングとしてα–フェトプロテイン (α–fetoprotein: AFP) 測定は有用である.また,一般的な肝硬変と同様に食道静脈瘤のスクリーニングも重要である.
治療・予防
FALDは発症や進展に寄与する危険因子を特定した前向き研究がなく,治療法も確立していない.Fontan術後患者の肝障害の危険因子として,心拍出量の低下,肺毛細血管圧や中心静脈圧の上昇など血行動態に関連する因子,Fontan手術を促進するための肺閉鎖などの手術,循環器イベント (不整脈,左室機能不全など),C型肝炎ウイルス感染やアミオダロンなどの肝毒性のある薬物への曝露などが想定されている6).Fontan循環を解剖学的,生理学的に最適化し,Failing Fontanの状態を回避することが重要とされる11).肥満や肺疾患などほかの併存疾患に対する治療は,肺血管抵抗や全身の血行動態によい影響を与える11).また,その他の肝疾患 (ウイルス性肝炎など) を合併している場合は,抗ウイルス療法を行うなど疾患に応じて対応する.飲酒は控えるように指導する.
〔井戸章雄・馬渡誠一〕
■文献
Ohuchi H: Adult patients with Fontan circulation: what we know and how to manage adults with Fontan circulation? J Cardiol, 2016; 68: 181–189.
Pundi K, Pundi KN, et al: Liver disease in patients after the Fontan operation. Am J Cardiol, 2016; 117: 456–460.
Lindsay I, Johnson J, et al: Impact of liver disease after the Fontan operation. Am J Cardiol, 2015; 115: 249–252.
Téllez L, Rodriguez de Santiago E, et al: Prevalence, features and predictive factors of liver nodules in Fontan surgery patients: the VALDIG Fonliver prospective cohort. J hepatol, 2020; 72: 702–710.
Ohuchi H: What are the mechanisms for FALD and how can we prevent the progression? Int J Cardiol, 2018; 273: 121–122.
Téllez L, Rodriguez–Santiago E, et al: Fontan–associated liver disease: a review. Ann Hepatol, 2018; 17: 192–204.
Simonetto DA, Yang HY, et al: Chronic passive venous congestion drives hepatic fibrogenesis via sinusoidal thrombosis and mechanical forces. Hepatology (Baltimore, Md), 2015; 61: 648–659.
Schwartz MC, Sullivan LM, et al: Portal and sinusoidal fibrosis are common on liver biopsy after Fontan surgery. Pediatr Cardiol, 2013; 34: 135–142.
Bradley E, Hendrickson B, et al: Fontan liver disease: review of an emerging epidemic and management options. Curr Treat Opt Cardiovascul Med, 2015; 17: 51.
Evans WN, Acherman RJ, et al: MELD–XI scores correlate with post–Fontan hepatic biopsy fibrosis scores. Pediatr Cardiol, 2016; 37: 1274–1277.
Daniels CJ, Bradley EA, et al: Fontan–associated liver disease: proceedings from the American College of Cardiology stakeholders meeting, October 1 to 2, 2015, Washington DC. J Am Coll Cardiol, 2017; 70: 3173–3194.