ⓔコラム13-25-1 薬物治療の指針
薬物治療に当たっては,まず患者の症状から重症度を分類する.1日に鼻をかむ回数が5回をこえる,あるいは鼻がつまって口呼吸をすることがあると中等症になる.特に,医療機関を受診するスギ花粉症患者の多くは中等症以上と考えられる.
病型は大きく3つに分類され,くしゃみや鼻漏が中心のくしゃみ・鼻漏型,鼻閉が中心の鼻閉型,鼻閉が強いがくしゃみや鼻漏も強く合併する充全型である.花粉症では,中等症以上でくしゃみ・鼻漏型には抗ヒスタミン薬内服に鼻噴霧ステロイドを,鼻閉型,充全型には抗ロイコトリエン薬に鼻噴霧ステロイド薬,さらに抗ヒスタミン薬の内服を併用が推奨されている.このような併用薬の推奨の背景には,通年性アレルギー性鼻炎とは異なり,スギ花粉症は花粉飛散開始前までは無症状であった多くの患者が,飛散開始とともに多量の花粉抗原の曝露を受けて激しい症状を示すことから「急性疾患」としてとらえられ,迅速に症状の改善が求められるためにほかならない.
さらに,最重症で特に鼻閉が強い症例では容易に薬剤に反応しないこともみられる.患者は鼻呼吸ができず強い睡眠障害があり,学習や仕事への集中力も大きく損なっている.その場合には7~10日に限って点鼻血管収縮薬の併用を勧める.長期の点鼻血管収縮薬の使用は逆に鼻閉を増強し,鼻漏の原因となり薬物性鼻炎を引き起こすので注意が必要である.さらに,糖尿病などの合併がない症例では,やはり1週間程度,経口ステロイドの内服を併用すると有効なことが多い.ステロイドの筋注はデポ製剤として保険では認められているが,投与後3週にわたり副腎機能は強く抑制され,月経や皮膚注射部にも影響が出る.国際的にも使用は推奨されていない.
一方,例年花粉症の症状が強い患者には,次年度の花粉飛散期に初期治療を受けることを勧めておく.花粉曝露を反復して受けていると症状が強くなり,鼻粘膜の過敏性も亢進して薬物治療を開始しても改善までに時間がかかる.症状が軽いときから治療を開始することで花粉飛散ピーク時も含めて症状をコントロールしやすく,QOLの改善にもつながることが示されている.ただ,花粉飛散前のまったく症状がないときからの薬物治療の開始を勧める報告もあるが,現状では花粉飛散開始時期を一定の精度で特定することが困難である以上,現実的ではなく,また,軽い症状が発現してから開始しても十分効果は認められている1).抗ヒスタミン薬のなかにはエフェドリン,あるいはPAFとの合剤になっているものも市販され,鼻閉に対する効果を特徴に挙げているものがあるが,海外では十分に臨床的な優越性を示す試験結果が得られていないこともあり,特に使用に当たって区別はされていない.また,最近,従来の薬物治療の効果が乏しい重症花粉症に対して抗IgE抗体療法2)が保険適用となったが,実際の臨床での選択,効果と持続性,費用負担が課題となっている.
〔岡本美孝〕
■文献
Sasaki K, Okamoto Y, et al: Cedar and cypress pollinosis and allergic rhinitis:Quality of life effects of early intervention with Leukotriene receptorantagonists. Int Arch Allergy Immunol, 2009; 149: 350–358.
Ciprandi G, Marseglia GL, et al: From IgE to clinical trials of allergic rhinitis. Expert Rev Clin Immunol, 2015, 11: 1321–1333.