ⓔコラム17-8-3 ドナーの選択順位
HLAの主要な抗原としてはHLAクラスⅠに属するHLA–A,B,CとクラスⅡに属するDR,DQ,DPが挙げられるが,HSCTにおいて特に重要なのは,HLA–A,B,DRである.それぞれ両親から遺伝した抗原を有するため,合計6個の抗原についてドナー候補者と患者間で比較する必要があるが,近年はHLA–Cの重要性も明らかになっており,すでに非血縁者間移植においてはHLA–Cもルーチンに検査が行われている.HLA検査は血清検査による抗原型の検査が行われてきたが,遺伝子型検査の導入によって,抗原が一致していても遺伝子型 (アリル) が異なる場合があることが知られている.
HLA適合血縁者間移植とHLA一抗原不適合血縁者間移植の国内の移植成績の大規模な比較では,グレードⅢ以上の急性GVHDの発症頻度は,HLA適合血縁者間移植と比較して一抗原不適合血縁者間移植で有意に増加するが,進行期白血病では再発率が低下したため,進行期移植においてはGVHDの増加による移植関連死亡率の増加と再発率の低下が相殺されて生存率はほぼ同等,病初期移植においてはGVHDの増加と比較して再発率の低下がわずかであるため,生存率はHLA一抗原不適合の存在によって有意に低下するという結果となった1).一方,HLA一抗原不適合血縁者間移植とHLA適合非血縁者間移植の比較では,非血縁者間骨髄移植をA,B,C,DRB1のすべてのアリルが適合している移植に限定して比較したところ,HLA (GVHD方向) 一抗原不適合血縁者間移植よりも有意にすぐれているという結果であった2).1アリル不適合 (遺伝子検査で判別される不適合) の非血縁者間骨髄移植の成績は,すべてのアリルが適合している移植よりも若干成績が劣るが,その差は年々縮まっている3).以上の結果から,HLA適合血縁者についで優先すべきドナーは,ドナーのコーディネートを待つ余裕があればHLA適合非血縁ドナー (HLA–A,–B,–C,–DRB1アリル型適合,あるいは1アリルのみ不適合) であるが,HLA一抗原不適合血縁ドナーも有力な候補となる.
しかし,移植を必要としながらも,血縁者に一抗原不適合までのドナーが見つからず,日本国内のバンクでもドナーが得られない場合には,海外バンクドナーからの移植,HLA二抗原以上不適合血縁者間移植,非血縁者間臍帯血移植が候補として考えられる.海外バンクドナーからの移植は減少しているが,HLAが適合していれば国内のHLA適合非血縁者間移植とほぼ同等の成績が得られており,金銭的な障壁がなければ検討に値する.非血縁者間臍帯血移植は一般的にはこれらに次ぐ優先順位の選択肢として位置づけられる.臍帯血移植では二抗原程度のHLA不適合があってもGVHDの頻度は許容範囲内であるが,生着不全の確率が高いこと,生着まで長期間を要することが問題点である.進行期造血器腫瘍に対してHLA二抗原以上不適合血縁者間移植 (HLAのハプロタイプを共有する移植.半合致移植ともよばれる) も行われている.HLAの不適合による拒絶の増加とGVHDの増加が問題となるため,重篤なGVHDの発症を抑制する方法としては体外でT細胞を除去する方法,サイモグロブリンやアレムツズマブを使用して体内でT細胞を除去する方法,移植後にシクロホスファミドを投与する方法などが研究されている.
〔神田善伸〕
■文献
Kanda Y, Chiba S, et al: Allogeneic hematopoietic stem cell transplantation from family members other than HLA–identical siblings over the last decade (1991–2000). Blood, 2003; 102: 1541–1547.
Kanda J, Saji H, et al: Related transplantation with HLA 1–antigen mismatch in the graft–versus–host direction and HLA 8/8–allele–matched unrelated transplantation: a nationwide retrospective study. Blood, 2012; 119: 2409–2416.
Kanda Y, Kanda J, et al: Changes in the clinical impact of high–risk human leukocyte antigen allele mismatch combinations on the outcome of unrelated bone marrow transplantation. Biol Blood Marrow Transplant, 2014; 20: 526–535.