ⓔコラム7-3-3 リステリア感染症の症状
リステリア感染症の臨床症状は,健常者でみられる発熱を伴う胃腸炎,妊婦や高齢者,免疫不全患者にみられる侵襲性疾患,新生児にみられる新生児リステリア感染症のおもに3つに分けられる.
発熱を伴う胃腸炎
健常者では,L. monocytogenesに汚染された食物の摂取後約24時間 (6時間~10日) で発熱や悪心,水様便,関節痛などを伴う胃腸炎を発症する1).症状は1~3日間持続するが自然軽快するため,抗菌薬の投与は不要である.
侵襲性疾患
妊婦や高齢者,細胞性免疫の低下した患者ではL. monocytogenesによる菌血症や中枢神経系感染症を発症することがあり,これらの侵襲性疾患の潜伏期間は約10日 (0~70日後) で,発熱性胃腸炎と比較して長い2).菌血症では発熱や頻脈を認め,髄膜炎や脳膿瘍などの中枢神経系感染症に進展すると発熱以外に意識障害や痙攣,巣症状などを伴う3).妊婦のリステリア感染症は妊娠28週以降に多く,発熱や背部痛,頭痛,消化器症状などを伴う胃腸炎や菌血症を発症するが,髄膜炎や死亡する症例はまれである4).しかし,妊娠中の感染は絨毛膜羊膜炎,流産,死産,早産,新生児感染症の原因となり,胎児,新生児の死亡率は高い4).
新生児リステリア感染症
新生児リステリア感染症は早発型新生児リステリア感染症と遅発型新生児リステリア感染症に分類される.早発型新生児リステリア感染症は経胎盤感染によって感染すると考えられ,生後数日以内に菌血症や肺炎,髄膜炎などを発症する.また,まれな病態であるが,経胎盤感染によって,肝臓や脾臓,皮膚に微小膿瘍や肉芽腫を形成する胎児敗血症性肉芽腫症を発症することがあり,いずれも致死率の高い感染症である.遅発型リステリア感染症は生後5~14日で発症する感染症で,感染経路は産道や妊婦の腸管,あるいは院内感染が原因と考えられており,早発型と比較して生存率は高いものの,髄膜炎に伴う後遺症を残す可能性がある5).
その他
ほかに,感染動物と直接接触した1~7日後に,接触部位に丘疹 (きゅうしん) 膿疱性発疹を呈する皮膚粘膜リステリア症や感染性心内膜炎,血管内感染,関節炎,骨髄炎,腹膜炎,尿路感染症,肺炎などさまざまな疾患も発症する.
〔堀野哲也〕
■文献
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