ⓔコラム7-3-8 ドノヴァン症
K. glanulomatisはドノヴァン症 (鼠径部肉芽腫症) の原因菌であり,風土病の性格をもつ潰瘍を形成する進行性の性感染症で非常にまれな疾患である.過去の発生地域はパプアニューギニア,オーストラリア北部,アフリカ南部,カリブ海,ブラジルおよびインドの一部である.ドノヴァン症の潜伏期は1~12週である.発症地域から来た患者で明るい肉赤色の湿ったなめらかな隆起病変を有し,悪臭を発する特徴的な潰瘍を形成する病変から診断され,悪性疾患を除外する必要がある.感染部位は陰茎,陰囊,鼠径,外陰,腟,会陰,肛門などである.病変の進行は緩徐だが治癒は遅く瘢痕 (はんこん) を残す.二次感染がよくみられ,骨,関節,肝臓などへの血行性播種 (はしゅ) が起これば死に至ることもある.ドノヴァン症患者との性的接触者は診察を受けるべきである.
ドノヴァン症の診断は病変部の縁を掻把して得られた滲出液の塗抹標本内にドノヴァン小体 (Giemsa染色でマクロファージの細胞質内に多数の桿菌を認める) を認めることで行う.K. glanulomatisは,長径1~2 µm,短径 0.5~0.7 µmのGram陰性桿菌であり,単球やHep–2細胞で培養され,通常の培養では検出困難である.本菌はCalymmatobacterium granulomatisとして知られていたが,最近の分子生物学的解析によりクレブシエラ属の1つであることが証明された.
ドノヴァン症の治療はテトラサイクリン系,マクロライド系,およびトリメトプリム・スルファメトキサゾールが最も効果的である.一方でペニシリンは無効で,フルオロキノロン,セフトリアキソン,ゲンタマイシン,ストレプトマイシンおよびクロラムフェニコールも有効である.アジスロマイシン1 g週1回の長期投与が有効との報告がある1).治療に対する反応は7日以内に始まるとされる.治療後再発することもあり6カ月間の経過観察が必要である.特にHIV感染患者ではより長期の治療が必要である.
〔浮村 聡〕
■文献