ⓔコラム8-6-3 特発性心室細動 (早期再分極症候群)

 心室細動からの生還例のなかに心機能や洞調律中の心電図異常,冠攣縮を含む冠動脈病変などを証明できない患者が存在し,これらは特発性心室細動と診断される.最近,特発性心室細動のなかに体表面心電図の下壁や側壁誘導に早期再分極所見 (STの上昇やJ波) を認める患者群 (早期再分極症候群またはJ波症候群) が多いと報告され,心室細動の発生機序との関連について注目を集めている (図1)1).ただし,早期再分極は5~15%の健常人にも認められる所見であり,無症状で家族歴 (若年の突然死) がない場合のリスクは低いと判断され,特に治療の必要性はない.

図1 無症候性早期再分極症候群の2症例. A:発作性心房細動に対してカテーテルアブレーションを行った症例.下壁誘導で最大振幅0.2 mVのJ波を認めるが,失神や心室性不整脈,突然死の家族歴はないため,無治療で経過を観察している. B:健康診断で異常を指摘され受診した無症候性早期興奮症候群.側壁誘導に顕著なJ波を認め,V4誘導で最大振幅0.3 mVをこえる.V3誘導で2型のBrugada症候群に類似するが,V1~V2や1肋間頭側の誘導でもBrugada型心電図を呈さず,Ⅰc群薬負荷でもSTの変化を示さず,Brugada症候群は否定された.本人の失神歴や家族歴もなく,突然死のリスクは低いと判断し,無治療で経過観察している.

特発性右室流出路起源心室頻拍

 特発性右室流出路起源心室頻拍のほとんどが良性であるが,きわめてまれに心室細動へ移行することがある (特発性心室頻拍の項参照).同心室頻拍のなかでも失神を訴える場合,心室頻拍中のレートが240拍/分以上で頻拍中のQRS波形が変貌するような所見があれば,心室細動のリスクがあるとされている (図2)2).流出路起源の異常興奮部位をカテーテルアブレーションにて除去できれば根治も可能である.

図2 特発性右室流出路起源心室頻拍から発生した心室細動. レートが240拍/分以上で,QRS波形が変貌する (赤色の▼印) 所見が心室細動以降のリスクとされている.

〔栗田隆志〕

■文献

  1. Haïssaguerre M, Derval N, et. al: Sudden cardiac arrest associated with early repolarization. N Engl J Med, 2008; 358: 2016–2023.

  2. Noda T, Shimizu W, et al: Malignant entity of idiopathic ventricular fibrillation and polymorphic ventricular tachycardia initiated by premature extrasystoles originating from the right ventricular outflow tract. J Am Coll Cardiol, 2005; 46: 1288–1294.