ⓔノート2-1-31 圧挫症候群

 第二次世界大戦 (1941年) のロンドン空襲では多くの建物が倒壊し,救出された患者において著明な下肢の膨張,ショック,褐色尿,急性腎不全による死亡が認められ,Bywatersによって初めてcrush syndrome (圧座症候群) という言葉が使われた.その後,戦争,炭鉱事故,地震などで症例報告がなされ,病態が明らかになった.

 1995 (平成7) 年の阪神・淡路大震災の際,医療従事者は圧座 (クラッシュ) 症候群という病態があることは知識としてはあったが,いざ患者を目の前にしても認識することができなかった.下肢麻痺があることから脊髄損傷と診断され,脊髄損傷であれば緊急処置は必要ないであろうという判断で経過観察となり,被災地内の病院で高カリウム血症あるいは急性腎不全で死亡した例があった.報告1)によると,広域医療搬送を行えば助かったと考えられる患者のなかに圧座 (クラッシュ) 症候群が多くあったとされている.

〔小井土雄一〕

■文献

  1. 平成16年度厚生労働科学研究「新たな救急医療施設のあり方と病院前救護体制の評価に関する研究」分担研究「災害時における広域緊急医療のあり方に関する研究」 (分担研究者:大友康裕) 報告書,2005.