ⓔコラム10-1-12 iPS細胞研究の進展
京都大学の後藤らの研究グループはiPS細胞から内胚葉,前方前腸 (anterior foregut endoderm) を経てNKX2–1陽性の腹側前方前腸細胞 (ventralized anterior foregut endoderm) を分化させ,carboxypeptidase M (CPM) という表面分子を用いて単離する方法を開発した.さらに培養条件を工夫することにより,NKX2–1陽性細胞と,ヒトの胎児肺線維芽細胞とを共培養して肺胞のオルガノイドを形成させると,約50%という高い効率でⅡ型肺胞上皮細胞の特異的なマーカーであるSFTPC (肺サーファクタント蛋白C (SP–C)) に陽性を示す細胞が分化することを報告した (図1).形態学的にもⅡ型肺胞上皮細胞に特徴的なラメラ体が観察され,生化学的にも肺サーファクタントの主成分であるホスファチジルコリンを産生する.このiPS細胞から作製したⅡ型肺胞上皮細胞はオルガノイドにおいてSFTPC陰性AQP5陽性PDPN陽性のⅠ型肺胞上皮様細胞へと分化する.さらに,iPS細胞由来の細胞だけで培養する方法として,Wntシグナル伝達経路の活性化 (CHIR99021) とトランスフォーミング増殖因子 (transforming growth factor: TGF)–βシグナル伝達経路の抑制 (SB431542) の相乗効果を用いることによって,約20%の効率で胎児肺線維芽細胞を用いずにⅡ型肺胞上皮細胞へ分化させることができた.また,上述のシングルセルRNAシークエンス解析から,このiPS細胞に由来するⅡ型肺胞上皮細胞は成人の肺のⅡ型肺胞上皮細胞と比較的近い遺伝子の発現パターンをもつことが示された.さらに,オルガノイドからiPS細胞に由来するⅡ型肺胞上皮細胞を単離し,それを再度ヒトの胎児肺線維芽細胞とオルガノイドを形成させ継代するという操作を繰り返すことにより,SFTPC陽性細胞を3カ月間以上の長期培養することが可能となっている1).
〔鈴木拓児〕
■文献