ⓔコラム10-5-1 特発性肺線維症の治療
治療方針の立て方
わが国のガイドラインでは,慢性安定期,急性増悪時,肺癌合併時の治療についてクリニカルクエスチョン (CQ) が設定されている1).抗線維化薬は進行抑制と急性増悪予防効果があり,慢性安定期の第一選択薬として使用される.
慢性安定期の治療
ⅰ) 抗線維化薬: ピルフェニドンは国内臨床試験の結果により2008年より世界に先駆けて使用可能となった.その後に国際臨床試験で有用性が示され2),国内外のガイドラインで使用が提案 (弱く推奨) されている1,3).ニンテダニブは国際臨床試験で有用性が示され4),2015年より使用可能となったが,国内外のガイドラインで使用が提案 (弱く推奨) されている1,3).
ⅱ)N―アセチルシステイン: N–アセチルシステイン (NAC) 単独吸入療法はわが国独自の治療法であるが,臨床試験で有効性が示されず,国内ガイドラインでは使用しないことが提案 (弱く推奨) されている1).
ⅲ) 肺移植: 重症・難治例を中心に脳死肺移植,生体肺移植が検討されるが,待機期間が長く実施例は限られている.IPFの移植後の平均生存期間は約4年である.
急性増悪時の治療
ⅰ) ステロイド: 歴史的に高用量のステロイドが使用されるが,これまで対照比較試験の報告はない.国内ガイドラインではパルス療法を含めたステロイド療法が提案 (弱く推奨) されている1).
ⅱ) 免疫抑制薬: 国内ガイドラインでは免疫抑制薬の使用が提案 (弱く推奨) されているが,少数の患者には合理的な選択肢でない可能性がある1).
ⅲ) その他: 好中球エラスターゼ阻害薬,エンドトキシン吸着療法,リコンビナントトロンボモジュリンは使用しないことが提案 (弱く推奨) されている.ただし少数の患者には,いずれも合理的な選択肢の可能性がある1).
肺癌合併時の治療
IPFに肺癌を合併した場合,肺癌の外科治療および化学療法がIPFの急性増悪を惹起するリスクを考慮する.
リハビリテーション
IPFにおける呼吸リハビリテーションの長期効果は明らかでないが,運動耐容能やQOLを改善するとされており,国内のガイドラインでも実施が提案 (弱く推奨) されている1).
患者対応
ⅰ) 生活指導: 喫煙はIPFの危険因子で発症後の増悪因子であり,禁煙が重要である.また,感染予防として肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンの接種を行う.慢性呼吸不全を伴う場合には在宅酸素療法を導入する.
ⅱ) 身体障害者: 低肺機能,慢性呼吸不全を伴う場合には,身体障害者 (呼吸器機能障害) に該当する場合があり,等級を確認したうえで申請を検討する.
ⅲ) 指定難病: IPFは国の指定難病であるIIPsの主要疾患である.
ⅳ) 精神的配慮: IPFは進行性で予後がきびしいために患者の多くが不安を抱えており,精神的な配慮が必要である.近年,間質性肺炎・肺線維症患者会が設立され,患者や家族を対象とした勉強会が開催されている.
〔稲瀬直彦〕
■文献
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「びまん性肺疾患に関する調査研究」班 特発性肺線維症の治療ガイドライン作成委員会:特発性肺線維症の治療ガイドライン2017.南江堂,2017.
King TE, Bradford WZ, et al: A phase 3 trial of pirfenidone in patients with idiopathic pulmonary fibrosis. N Engl J Med, 2014; 370: 2083–2092.
Raghu G, Rochwerg B, et al: An Official ATS/ERS/JRS/ALAT Clinical Practice Guideline: Treatment of Idiopathic Pulmonary Fibrosis. An Update of the 2011 Clinical Practice Guideline. Am J Respir Crit Care Med, 2015; 192: e3–e19.
Richeldi L, du Bois RM, et al: Efficacy and safety of nintedanib in idiopathic pulmonary fibrosis. N Engl J Med, 2014; 370: 2071–2082.