ⓔコラム10-9-1 内臓逆位

 脊椎動物の内臓は極端な非対称性を示す (図1).心臓,脾臓は左側,肝臓は右側などといった具合である.これは胎生初期に確立する左右軸による.哺乳類では,胎生初期に原条の前端に位置するノードとよばれるくぼみが形成され,周囲は,内胚葉,中胚葉,外胚葉の三層構造であるがノードの部分は2層性構造となっている.このノードを構成する細胞は,中心部をピット細胞,それを取り囲むようにクラウン細胞からなりいずれも線毛を有する.この線毛は,気道,生殖器にある運動線毛に属するが,構造上中心管,ラジアルスポーク,ネキシンを欠損し,やや尾側に傾き時計回りに回転することで左向きの体液の流れ (ノード流) を作り出している.左向きのノード流を感受しているのがセンサを有するのがクラウン細胞でCa2+チャンネルPkd2である.Pkd2を介した左右差の情報が,将来臓器となる側板中胚葉に伝達されTGFβファミリーの分泌蛋白をコードするNodal遺伝子やその下流の転写因子をコードするPitx2遺伝子の左特異的な発現につながり左右非対称な携帯形成が進行していく.したがってピット細胞の線毛の機能異常により左向きのノード流が形成されなければ内臓逆位に代表される内臓位置が生じる原因の1つとなる.

図1 ノードの線毛と非対称性へのシグナル伝達 (Hamada H: Etiology and Morphogenesis of Congenital Heart Disease (Nakanishi: T,Markwald RR,et al eds), 2016). マウス胚A:前部,P:後部,R:右,L:左. node,赤矢印:ノード流.

〔瀬戸口靖弘〕

■文献

  1. Little RB, Norris DP: Right, left and cilia: how asymmetry is established. Semin Cell Dev Biol, 2021; 110: 11–18.

  2. Hamada H: Molecular and cellular basis of left–right asymmetry in vertebrates. Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci, 2020; 96: 273–296.