ⓔコラム11-3-11 食道・胃静脈瘤内視鏡所見記載の意義

 占居部位 (location: L)

 占居部位 (L) は上部 (Ls),中部 (Lm),下部 (Li) に分けられる.上部と中部の境界は気管分岐部であり,左主気管支や大動脈弓による圧排像を参考にする.中部と下部の境界は気管分岐部から食道胃接合部までを二分した中間点であるが,内視鏡所見での目安はなく,判別に迷うこともある.できるだけ切歯列からの距離を併記するとわかりやすい.占居部位は出血予知因子としては重要視されていない.なぜなら,出血部位は86%の症例で食道胃接合部から5 cm以内の下部食道であったと報告されており1),出血予知においてL因子はあまり意味がないと思われる.

 形態 (form: F)

 形態は内視鏡分類の基本である.形態はF0 (治療後の静脈瘤消失),F1 (直線的で比較的細い),F2 (連珠状で中等度),F3 (結節状または腫瘤状) の4つに分類される.数条ある静脈瘤のなかで最も大きいFの数値をその症例の形態として代表して記載する.形態と出血の関連についてみると,形態が大きくなるほど静脈瘤上の発赤所見が高頻度に観察されるため,F3やF2はF1に比べて出血のリスクが高い1)

 色調 (color: C)

 食道静脈瘤の基本色調 (C) は,白色調 (Cw) と青色調 (Cb) の2つに分類される.個々の静脈瘤の色調が異なる場合は,最も大きな食道静脈瘤の色調をもって基本色調とする.Cwは白色調を呈する静脈瘤であり,正常の食道粘膜の色調をもつ静脈瘤である.一方,Cbは青色調ないし蒼白調を呈する静脈瘤である.CbはCwに比べて幅が広く緊満しており,粘膜が菲薄 (ひはく) 化しているために青色調を呈している.粘膜がさらに菲薄化すると赤みが加わり,紫色や赤紫色を呈するようになる.このような所見があればviolet (v) を付記してCbvと記載してもよい.静脈瘤の基本色調と出血の関連については,一般的にCwに比べ,CbやCbvは出血リスクが高いと考えられている.特に,F3の緊満したCb,Cbvは出血のリスクが高く2),可及的速やかに治療すべきである.一方,Cw症例の出血率は,発赤所見の有無により大きく左右されており,静脈瘤の色調が白色調であること自体は,出血予知において重要な所見ではない.また,EISによる治療後,食道静脈瘤は完全閉塞性血栓で閉塞され,しばしば暗青色静脈瘤 (Cb–Thと記載,いわゆるbronze varices) を呈する.その後,血栓の多くが吸収されると,食道静脈瘤は白色調を呈し (Cw–Thと記載),最終的には平坦化し,ひも状を呈するようになる (white cord).

 発赤所見 (red color sign: RC)

 RCは,食道静脈瘤を覆う粘膜面の一部が菲薄化し,赤色調を呈するもので,出血リスクの高い重要な所見である.発赤所見は,ミミズ腫れ (red wale marking: RWM),チェリーレッドスポット (cherry red spot: CRS),血マメ (hematocystic spot: HCS) の3つに分類されるが,HCSがもっとも出血リスクが高い2).病理組織学的には,RWMとCRSは静脈瘤上の粘膜固有層での毛細血管が怒張・拡張したものであり,HCSの一部は粘膜下静脈瘤が粘膜筋板を穿通し,粘膜固有層で囊腫状に拡張したものである.いずれの所見も血管を被覆する重層扁平上皮が著明に菲薄化したものであり,門脈圧の急激な上昇や外的刺激,静脈瘤上のびらん形成などで容易に破裂すると考えられている.RCを認めた場合は出血リスクが高いと考え,直ちに治療すべきである.RCの程度から4段階 (F0~F3) に分けられる.RCを認めないものをRC0,限局性に少数 (1/3周以下) 認めるものをRC1,全周性に認めるものをRC3,RC1とRC3の間をRC2と記載する.また,F0であっても発赤所見があれば,RC1~3で記載する.なお,telangiectasiaがある場合はTeを付記する.Teも病理組織学的にはRWMと同様にred veinを主とした上皮下静脈の拡張であり,静脈瘤出血を予知する所見である3).また,静脈瘤治療後の再発形式の1つとして重要である4)

 出血所見 (bleeding sign: BS)

 出血所見は,出血中と止血後間もない時期の所見に分類されている.出血中の所見として,破裂部が大きく湧き出るような湧出性出血 (gushing bleeding),破裂部が小さくジェット状の噴出性出血 (spurting bleeding),勢いがなく,じわじわとにじみ出る滲出性出血 (oozing bleeding) の3つに分類される.止血後間もない時期の所見として,赤色栓 (red plug) と白色栓 (white plug) がある.赤色栓は赤色調を呈したフィブリン栓であり,出血から24時間以内の所見で,白色栓は出血から2~4日後の所見である.これらは再出血の危険性がきわめて高く,直ちに治療すべきである.

 粘膜所見 (mucosal finding: MF)

 粘膜所見として,びらん (erosion: E),潰瘍 (ulcer: Ul),瘢痕 (はんこん) (scar: S) の3つがあり,あればそれぞれを付記する.Eは静脈瘤上にびらんや白苔付着を認めたもので,UlやSは内視鏡治療後によって生じた所見である.

 食道静脈瘤の内視鏡所見記載法

 食道静脈瘤の所見は記載項目L,F,C,RC,BS,MFの順で記載する.ⓔ図11-3-15に症例を呈示した.食道静脈瘤は上部食道まで占居し,結節状の太い形態で青色調を呈し,発赤所見 (RWM) が1/3周以上に認められる.また,telangiectasiaも認められる.以上の内視鏡所見から,本例は”Ls F3 Cb RC2 (RWM) Te”と記載される.

〔小原勝敏〕

■文献

  1. Dagradi AE, Stempien SJ, et al: Experiences with esophago–gastroscope during active upper gastro–intestinal hemorrhage. Bull Gastroent Endosc, 1965; 11: 20.

  2. 別府和茂,井口 潔,他:食道内視鏡検査による静脈瘤出血の予知に関する検討.肝臓,1981; 22: 102–109.

  3. 中村祥三:食道静脈瘤の血管構築像および内視鏡からみた発赤所見に関する研究.Gastroenterol Endosc, 1985; 27: 17–25.

  4. 矢崎康幸,関谷千尋,他:大きな胃静脈瘤の内視鏡的硬化療法-Histoacrylを用いた手技の工夫と治療効果判定.消化器内視鏡,1991; 3: 1467–1476.