ⓔコラム11-4-16 MALTリンパ腫の診断時と治癒経過中の正しい組織評価のために
MALTリンパ腫は粘膜深層に病変の主座をもっているので,生検診断を行う場合は粘膜浅層までの組織片では正しい診断がつかないことがある.粘膜筋板までしっかりつかむつもりで生検する必要がある.また,除菌治療後もまず,粘膜表層から病変が消退していくので治療後経過中も粘膜深層までの材料で病状を評価する必要がある.生検組織診断を客観化するために治療前にはWotherspoonらが提唱した組織グレードスコア (grade 0~5) (表1)1)が用いられている.通常grade 4およびgrade 5でMALTリンパ腫と見なされ治療の対象となる.H. pylori除菌に成功するとリンパ濾胞が消失するため,Wotherspoonらの組織診断スコアでは除菌後の正確な組織評価は困難である.このため,治療後の組織診断基準として,欧州成人リンパ腫研究グループ (Groupe d’Etude des Lymphomes de l’Adulte: GELA) の組織グレードシステム2)が提唱された.GELA基準では,リンパ球と腺組織が脱落し,粗な結合組織と散在する形質細胞が観察される空隙様の粘膜固有層 (empty lamina propria) が治療反応例の特徴とされる.治療反応例のうち,リンパ球集簇 (しゅうぞく) がまったくみられないものをcomplete histological response (ChR),粘膜深部や筋板周囲にリンパ球の集簇が残存する例をprobable minimal residual disease (pMRD) と定義する.臨床的にはpMRDはChRとともにCRの範疇に含める.明らかなリンパ腫細胞が残存し,empty lamina propriaが観察される例はresponding residual disease (rRD) と判定し,臨床的には部分寛解 (partial remission: PR) に相当する.GELA基準は欧州で広く用いられており,わが国でも普及してきている.
〔岡田裕之〕
■文献
Wotherspoon AC, Doglioni C, et al : Regression of primary low–grade B–cell gastric lymphoma of mucosa–associated lymphoid tissue type after eradication of Helicobacter pylori. Lancet, 1993; 342: 575–577.
Copie-Bergman C, Gaulard P, et al: Proposal for a new histological grading system for post–treatment evaluation of gastric MALT lymphoma. Gut, 2003; 52: 1656.