ⓔコラム11-4-6 FD患者と酸との関係
FD患者の酸分泌能が健常者より高いという報告はほとんどない1).そして,酸が原因なら,酸分泌抑制薬を使用した場合,用量依存的に症状改善がみられることが予想されるが,FDに対するラベプラゾールの有効性を検討した無作為化対照試験 (randomized controlled trial: RCT) では,ラベプラゾールの量を最大量まで上げた場合有意差が消失している2).
したがって,FD発症には酸以外の因子の関与が大きく,酸分泌抑制薬のFD患者に対する有効性は,酸分泌抑制以外の作用によってもたらされているのかもしれない.酸以外の因子としては前述の十二指腸粘膜のバリア機能の破綻と微細炎症が重要視されている.PPIは食道粘膜の好酸球の浸潤を誘導するリガンドであるeotaxin–3の遺伝子発現を低下させることがある3).したがって,同様にPPIは十二指腸粘膜においても好酸球浸潤などの微細炎症を抑制し,この微細炎症の抑制が症状改善に寄与するのかもしれない.
胸やけなどはGERDに含まれる症状で,FDの症状には含まれていない.しかしFDにGERDが合併することは多く4),酸分泌抑制薬で症状が改善するFDのなかにはGERD合併例がいるかもしれない.
しかし,現時点では,GERD合併のないFDであっても酸はFD発症の要因であり,やはり酸分泌抑制薬はFD治療において重要な働きをする薬であることに異論はない.
〔北條麻理子・永原章仁〕
■文献
Nyrén O: Secretory abnormalities in functional dyspepsia. Scand J Gastroenterol Suppl, 1991; 182: 25–28.
Iwakiri R, Tominaga K, et al: Randomised clinical trial: rabeprazole improves symptoms in patients with functional dyspepsia in Japan. Aliment Pharmacol Ther, 2013; 38: 729–740.
Molina-Infante J, Rivas MD, et al: Proton pump inhibitor–responsive oesophageal eosinophilia correlates with downregulation of eotaxin–3 and Th2 cytokines overexpression. Aliment Pharmacol Ther, 2014; 40: 955–965.
Kaji M, Fujiwara Y, et al: Prevalence of overlaps between GERD, FD and IBS and impact on health–related quality of life. J Gastroenterol Hepatol, 2010; 25: 1151–1156.