ⓔコラム12-29-7 化学療法

 エルロチニブは上皮成長因子受容体 (epidermal growth factor receptor: EGFR) のチロシンキナーゼを選択的に阻害する分子標的薬である.GEM+エルロチニブ併用はGEM単独に比べ,生存期間の延長はそれほど大きくないこと (ハザード比0.82),間質性肺炎が高率に認められることから,GEMに置き換わる治療としては認識されておらず,現在,日常診療ではほとんど使われていない.

 FOLFIRINOX療法 (図1) とGEM+ナブパクリタキセル併用療法が切除不能膵癌に適応となり,GEM単独に比べ高い治療効果が期待できることから,第一選択の治療として汎用されている.遠隔転移例を対象に行われたGEM単独療法との第3相試験により全生存期間の著明な延長が得られている (ハザード比0.57).しかし好中球減少や発熱性好中球減少などの血液毒性や末梢神経障害,嘔吐,下痢,疲労感などの非血液毒性が多く認められ,65歳以下の非高齢者,全身状態が良好,減黄が十分,感染症のリスクがないなどの適正な適応が必須である.また,高用量のイリノテカンが用いられており,イリノテカンの代謝に影響を与えるUGT1A1遺伝子多型をあらかじめ確認する必要がある.

図1 FOLFIRINOX療法の治療法 (Conroy T, Desseigne F, et al: N Engl J Med, 2011; 364: 1817–1825). modified FOLFIRINOX:5–FU急速静注を削除,イリノテカンを150 mg/m2 に減量する (Ozaka M, Ishii H, et al: A phase II study of modified FOLFIRINOX for chemotherapy–naïve patients with metastatic pancreatic cancer. Cancer Chemother Pharmacol, 2018; 81:1017–1023)

 ナブパクリタキセルはパクリタキセルにアルブミンを結合させた130 nmのナノ粒子製剤である.従来のパクリタキセルに比べ,生理食塩液に懸濁性のため前投与が不要である.また高分化により腫瘍組織への集積性が増し,抗腫瘍効果の改善が期待できる.GEM単独とGEM+ナブパクリタキセル併用療法 (図2) との第3相試験により有意な生存期間の延長が得られている (ハザード比0.72).おもな有害事象は骨髄抑制,下痢,末梢神経障害であるが,比較的忍容性は高い.

図2 ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法の治療法 (Von Hoff DD, Ervin T, et al: N Engl J Med, 2013; 369: 1691–1703).

〔古瀬純司〕