ⓔコラム12-5-1 ゲノムワイド関連解析
近年のゲノムワイド関連解析 (genome–wide association study: GWAS) により,NAFLDに関連する一塩基多型 (single nucleotide polymorphism: SNP) として,22番染色体上のpatatin–like phospholipase domain–containing protein 3 (PNPLA3, adiponutrin) 遺伝子にrs738409 (I148M) およびrs6006460 (S453I) の2つの変異が明らかになった1).PNPLA3のI148M変異は肥満や糖代謝,脂質異常,高血圧などの代謝性素因との関連は薄い一方で,肝脂肪化のみではなくNASHの線維化進行例との関連が強いことが明らかにされている.この148MアレルはPNPLA3によるグリセロ脂質代謝を抑制することで肝細胞の大滴性脂肪化を生じる.
PNPLA3以外にもNAFLD/NASHと関連が示唆されている遺伝子は数々報告されているが,動脈硬化性病態との関連で興味深いものにtransmembrane 6 superfamily member 2 (TM6SF2) が挙げられる2).TM6SF2の変異は肝細胞からのVLDLの分泌を規定していることから,E167KバリアントではNASHが進展しやすい一方で動脈硬化は起こりにくいと考えられる3).このことは,NAFLD/NASHが単なる動脈硬化性疾患のリスク因子ではなく,遺伝子型によって肝病態と動脈硬化の進展に差異が生じうることを示唆している.
また,肥満に関連する因子としては,倹約遺伝子として知られるβ3–アドレナリン受容体の遺伝子多型や種々のアディポサイトカイン遺伝子の変異が知られている.脂肪肝の形成には糖・脂質代謝関連分子であるインスリン受容体やperoxisome proliferator–activated receptor (PPAR) α,microsomal triglyceride transfer protein (MTP),lectin–like oxidized LDL receptor (LOX)–1,fatty acid–binding protein (FABP) 2,アポリポ蛋白 (Apo) C,Apo Eなどの遺伝子多型が関与していることが報告されている.日本人ではMTP活性低下を示す遺伝子多型の頻度が高いことが,欧米人に比して肝に中性脂肪が蓄積しやすい一因と考えられている.
〔池嶋健一〕
■文献
Romeo S, Kozlitina J, et al: Genetic variation in PNPLA3 confers susceptibility to nonalcoholic fatty liver disease. Nat Genet, 2008; 40: 1461–1465.
Mahdessian H, Taxiarchis A, et al: TM6SF2 is a regulator of liver fat metabolism influencing triglyceride secretion and hepatic lipid droplet content. Proc Natl Acad Sci USA, 2014; 111: 8913–8918.
Dongiovanni P, Petta S, et al: Transmembrane 6 superfamily member 2 gene variant disentangles nonalcoholic steatohepatitis from cardiovascular disease. Hepatology, 2015; 61: 506–514.