ⓔコラム14-1-5 腎移植の歴史
1900年代初頭に動物を用いた実験的腎移植が行われ,血管吻合など技術的な検証がこの時代に進んだ.オーストリアのUllmannはイヌを用い,Carrelはネコを用いた腎移植を行っている.このなかで移植した腎臓が早期に機能廃絶に至ることから移植臓器に対して免疫学的な反応が惹起されることが判明し,現在の拒絶反応の概念が出てくることとなり,臓器移植の分野でこの現象が大きな障壁になることが明らかになってきた.1930年代に死体腎を用いたヒトへの腎移植も行われたが,当時は免疫抑制薬が存在しなかったためその成績は満足すべきものではなかった.このような状況下で1954年米国ボストンにおいてMurrayとMerrilらが一卵性双生児間の腎移植に世界で初めて成功し,7例の一卵性双生児間の腎移植を報告した.またMurrayは一連の移植手術において,現在でも用いられている腸骨窩への腎移植手術手技を確立させたとして高く評価されている.遺伝的背景が異なる同種腎移植については優れた免疫抑制薬の出現が待たれたが,1963年にアザチオプリンが,1978年にシクロスポリンが初めて死体腎移植で使用されるようになり,腎移植の成績も飛躍的に進歩した.その後タクロリムス,ミコフェノール酸モフェチル,サイモグロブリン,抗CD25抗体,抗CD20抗体と現在でも使用されている免疫抑制薬が開発,普及することによって腎移植の成績が良好となった.
わが国においては1956年に新潟大学の楠らが,人工腎臓の代替えとして急性腎不全患者に一時的に腎移植した症例が第1例である.その後1964年に東京大学において木本らが慢性腎不全患者に対し,永久生着を目指した生体腎移植を初めて行った.その後1980年代に入り日本においてもシクロスポリン,タクロリムスといったカルシニューリン阻害薬が使用されるようになり,腎移植の成績は飛躍的に向上した.また,血液型不適合移植も1989年に東京女子医科大学の太田らによって国内で初めて行われ,その後も免疫抑制薬の進歩と共に移植腎生着率も上昇し最近では10年生着率が90%を超えるまでになっている.
〔田邉一成〕