ⓔコラム14-3-1 糸球体病変の病理分類と臨床的特徴
わが国においては,WHO分類の一次性疾患に加えて,糸球体に病変が限局するIgA腎症も加えて原発性としている.おもな疾患の臨床病理学的特徴を述べる (表14-3-2)1–3).
a) 微小糸球体変化 (minor glomerular abnormalities) と微小変化型ネフローゼ症候群 (minimal change nephrotic syndrome:MCNS)【⇨14-3-5】:WHO分類では,糸球体に際だった変化が認められない疾患を微小糸球体変化とよぶ.一方,臨床的にネフローゼ症候群を呈するものを微小変化型ネフローゼ症候群とよび,電子顕微鏡では糸球体上皮の足突起消失という特徴を示す.このように病理学的「微小糸球体変化」には,MCNSのほかに軽度の蛋白尿や血尿を呈するのみで,ネフローゼ症候群を呈さない菲薄 (ひはく) 基底膜病なども含まれる.
b) 巣状分節性糸球体硬化症 (focal segmental glomerulosclerosis:FSGS)【⇨14-3-6】:限られた糸球体 (巣状) の一部 (分節性) に硬化が発生する疾患で,診断は病理組織学的に行われるため,原発性のほかさまざまな原因による二次性病変も含まれる.原発性は難治性ネフローゼ症候群を示すことが多く,治療に反応しない場合に腎不全に陥る.発症初期にはMCNSとの鑑別が難しいことも少なくなく,臨床的にはステロイド抵抗性を示すことが多い.
c) 膜性糸球体腎炎・膜性腎症 (membranous nephropathy:MN)【⇨14-3-7】:糸球体基底膜の上皮側にびまん性に免疫複合体が沈着し,スパイク状に基底膜が肥厚する疾患である.一次性・二次性のいずれにおいても生じうる病変であり,一次性の約70%に血漿中抗膜型ホスホリパーゼA2受容体 (PLA2R) 抗体あるいは上皮下免疫複合体中にPLA2Rが検出される4, 5).高齢 (60歳以上) 発症が約60%を占め,成人難治性ネフローゼ症候群の原因疾患として最も頻度が高い4).
d) メサンギウム増殖性糸球体腎炎 (IgA腎症および非IgAメサンギウム増殖性糸球体腎炎)【⇨14-3-4,14-3-9】:わが国の腎生検レジストリーにおける原発性疾患の約65%に認められ,その多くはIgA1を主体とするIgAおよびこの変性IgA1に対する抗体と考えられるIgGがメサンギウム領域に沈着するIgA腎症である6).IgA腎症では,メサンギウム細胞増殖や基質増加に加えて,小半月体形成,分節性硬化などの糸球体病変と間質の細胞浸潤や線維化を伴い,20歳以上の診断例の約90%が慢性腎炎症候群を示す3, 6).なお,MCNSにおいてもメサンギウム増殖を伴う場合があるが,臨床的にはステロイド反応性・予後に差はない7).また,メサンギウムにIgM沈着を伴う場合は,病理学的にIgM腎症と診断される8).
e) 管内増殖性糸球体腎炎【⇨14-3-2】:糸球体係蹄内腔への好中球・単球などの浸潤を伴う内皮細胞増殖が特徴で,ときに,Masson染色で赤色の上皮下沈着物が観察される.特にA群β溶連菌感染後腎炎では,補体 (C3) とときにIgGが顆粒状沈着 (starry sky appearance) を示し,上皮下の大きな瘤状の高電子密度沈着物 (hump) を特徴とする.多くは急性腎炎症候群を示す2, 3).
f) 膜性増殖性糸球体腎炎 (membranoproliferative glomerulonephritis:MPGN)【⇨14-3-8】:メサンギウム増殖と基質の増加による糸球体毛細管壁の肥厚を伴う病態であり,おもに電子顕微鏡所見によりⅠ型からⅢ型に分類された.現在,Ⅱ型はdense deposite病 (DDD) として異なる病態として扱うとともに補体C3沈着を伴いC3腎炎との鑑別に注意を要する (ⓔノート14-3-1)9).Ⅰ型では,免疫組織学的に糸球体基底膜内皮側にIgや補体が沈着し,低補体血症が高率にみられる.本症は各年齢層にみられるが,近年日本をはじめ先進諸国において減少傾向にある10).
g) 半月体形成性壊死性糸球体腎炎:壊死性半月体形成性糸球体腎炎は,壊死性病変とともに細胞性から線維性までの半月体形成を呈する.臨床的には,RPGN【⇨14-3-3】を示すことが多く,このうち原発性と考えられるものが50~60%であるが,その原因の約70% (RPGN全体の約半数) が糸球体にIg沈着を示さないpauci–immune型である11).わが国ではおもに核周囲型ANCA陽性を示し,ミエロペルオキシダーゼ (myeloperoxidase: MPO)–ANCA関連腎炎とよばれる.このような病態はおもに高齢者にみられ,全身性顕微鏡的多発性血管炎の腎病変である場合がある.このほか抗糸球体基底膜抗体あるいは免疫複合体による場合もあり,肺胞出血を伴う場合はGoodpasture症候群【⇨14-6-8】として知られている.
〔横山 仁〕
■文献
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