ⓔコラム15-1-1 ホルモン濃度測定の発展

 微量なホルモンが測定できなかった時代は,生物学的作用をin vitroの系で再現するバイオアッセイや副腎ステロイドの尿中排泄量を測定する比色法などが中心に行われていたが,煩雑さや感度・特異度の面で問題があった.ここに風穴をあけたのが,YalowとBersonらによる抗原抗体反応を利用したラジオイムノアッセイ (radioimmunoassay: RIA) の開発である (1959年).これによりピコモルオーダー (pM=10-12 M) の微量なホルモン測定が可能となり,内分泌学は大きく発展してきた.狭義のRIAは,固相化した抗体の測定系に,放射性同位元素で標識した抗原 (ホルモン) と検体を入れ,競合反応により検体中のホルモン濃度を求める方法である (図1).一方,イムノラジオメトリックアッセイ (immunoradiometric assay: IRMA) は,抗原と十分量の抗体を用いて,競合的な抗原抗体反応を起こさずに抗原となるホルモンを直接測定する方法で,より感度が高い (図1).1970年代に入り,放射性同位元素による標識に代わって酵素 (enzyme immunoassay: EIA) や化学発光 (chemiluminescent immunoassay: CLIA) による標識が用いられるようになり,試薬の安定性と,特別な施設が不要になったことから,利便性が格段に高まった.最近では感度の面から,酵素標識のなかでも化学発光基質添加による発光強度を測定するCLEIA (chemiluminescent enzyme immunoassay) が普及している.また,化学発光標識のなかでもルテニウム錯体標識抗体 (あるいは抗原) に対して電気化学反応による発光強度を測定するECLIA (electrochemiluminescent immunoassay) が,全自動化システムの導入により主流を占めるようになった (図2).しかし例えば,9つのアミノ酸からなる小ペプチドAVPについては,2つの異なるエピトープを認識する抗体の作成が困難なことから,その測定にいまなおRIAが用いられている.また,TSH受容体刺激型抗体の測定法としてin vitroの系でcAMPを測定するバイオアッセイ (EIAで測定) も行われている.一方で,イムノアッセイには感度や特異度の面でなお問題となることがあり,他の分析法として高速液体クロマトグラフィ (HPLC) や質量分析法 (mass spectrometry: MS) も臨床の現場で用いられる (ⓔ図15-1-1).これらは多項目を同時に測定できるメリットもある (カテコールアミン3分画など).

図1 RIA (競合法) とIRMA (非競合法) の原理. 競合法は,一定量の抗体と既知量の標識抗原に対して,測定対象のホルモン (非標識抗原) を含む検体を加えて反応させる.抗体に結合した標識抗原 (bound: B) と抗体に結合していない遊離型の抗原 (free: F) を分離 (B/F分離) し,標識抗原の総量 (T) に対するBの割合を求める. 非競合法は,過剰量の固定化抗体に測定対象のホルモンである未知量の抗原 (非標識) を含む検体を加えて反応させる.そこに既知量の過剰量標識抗体 (T) を反応させ,測定対象のホルモンを抗体でサンドイッチする.抗原に結合した標識抗体 (B) と結合しなかった遊離型の標識抗体 (F) を分離し (B/F分離),Tに対するBの割合を求める. いずれも,あらかじめ既知濃度のホルモンを測定して作成した検量線を用いてB/T値から未知の抗原量を算出する.
図2 化学発光法の種類. CLIA:発光物質が直接標識されているため,結果が短時間で出るが不安定. CLEIA:酵素により発光基質が分解する際の発光を拾う.発光時間が長く安定であるが,酵素反応に時間を要する. ECLIA:電気エネルギーによる発光錯体の発光を拾う.高い精度で発光反応の制御ができる.

〔槙田紀子〕