ⓔコラム15-17-4 骨粗鬆症をめぐる周辺概念と骨折リスク
サルコペニア1)
筋減少 (サルコペニア) は,骨を支える筋組織の量的不足を基本概念としているが,同時に機能障害にも配慮している.欧州のワーキンググループによる定義では「筋量と筋力の進行性かつ全身性の減少に特徴づけられる症候群で,身体機能障害,QOL低下,死のリスクを伴うもの」とされている.アジアサルコペニアワーキンググループによる,サルコペニアの診断基準が提唱され,わが国でも日本サルコペニア・フレイル学会より診療ガイドラインが作成され,診療に関するガイドも作成されている2).筋量の減少ならびに筋力の低下は,直接骨への機械的刺激 (メカニカルストレス) を減少させ,骨量減少につながるとともに,転倒リスクも増大する.
フレイル3)
日本老年医学会では,高齢者が不可逆的な機能障害に陥る前の状態を「フレイル」と定義し,栄養・運動などによる積極的介入を提案している.フレイルの定義は「加齢に伴う予備能力の低下のため,ストレスに対する回復力が低下した状態」を表すfrailtyからつくられ,要介護状態に至る前段階として位置づけられる.フレイルには,直接骨折につながる身体的フレイルのほか,精神的フレイル,社会的フレイルなどがあり,自立障害や死亡を含む健康障害を招きやすい.骨粗鬆症による骨折そのものがフレイルを悪化させるとともに,フレイルによる身体機能障害が骨折リスクを増加させ,生活機能の低下,合併疾患の増加につながる.逆に,骨折そのものがフレイルの誘因となり,自立度を低下させ生命予後を悪化させる.
ロコモティブシンドローム4)
日本整形外科学会が提唱した,運動器不安定症に対する日本独自の概念である.ストップ・ザ・ロコモ協議会が,啓発活動に努めている.運動機能の低下は転倒リスクの増大につながり,脆弱性骨折の発生に深く関係する.
〔鈴木敦詞〕
■文献
サルコペニア診療ガイドライン作成委員会編:サルコペニア診療ガイドライン 2017年版,ライフサイエンス出版,2017.
サルコペニア診療実践ガイド作成委員会編:サルコペニア診療実践ガイド,日本サルコペニア・フレイル学会,2019.
荒井秀典編:フレイル診療ガイド 2018年版,日本老年医学会,2018.
Nakamura K: The concept and treatment of locomotive syndrome: its acceptance and spread in Japan. J Orthop Sci, 2011; 16: 489–491.