ⓔコラム16-2-4 糖尿病ケトアシドーシスの治療

 補液には生理食塩液 (0.9%NaCL) を用い,全身状態に応じて投与速度を調整する.心機能,腎機能に問題がなければ1 L/時間で開始し,以降は循環動態に応じて250 mL/時間を目安に調整する (表16-2-16)1).平均して体重の10%の水分 (100 mL/kg,60 kgの症例なら6 L) と10 mEq/kgのNaClが欠乏している1).血糖値が250 mg/dL程度になったら生理食塩液からグルコースを含む維持輸液に変更する.

 インスリンは速効型インスリンを持続静注する.投与量は1時間当たり0.1単位/kg体重 (60 kgの症例なら6単位/時間) でシリンジポンプを用いて行う (表16-2-16)1,2).1時間に75~100 mg/dLの血糖低下を認めれば順調といえる.治療開始時には脱水による循環不全や高血糖・アシドーシスのためにインスリン抵抗性を示し,血糖降下が不十分な場合がある.脱水やアシドーシスの補正に伴いインスリン作用が急に増強する場合があるので,血糖が低下しはじめたらインスリン注入速度に注意し,適宜減量する.

 電解質のうちで細胞内に多く分布するカリウムは,インスリン作用不足やアシドーシスによって細胞内への移行が障害されるため,血中濃度としては見かけ上正常かやや高値を示すことが多いが,全身総量としては欠乏している (欠乏量は平均5 mEq/kg,60 kgの症例で300 mEq程度).血糖の低下に伴いグルコースとともにカリウムも細胞内へ移行して血清カリウムの低下が認められるのでカリウムの補充を行う.血清カリウム値が5.0 mEq/L未満になったら1時間に10~20 mEqのカリウムを輸液に補充を開始し,血清カリウム値を4.0~5.0 mEq/Lの範囲に維持する (表16-2-16)1)

 重炭酸ナトリウム投与によるアシドーシスの補正は原則的に行わない1)

〔池上博司〕

■文献

  1. 糖尿病における急性代謝失調・シックデイ.糖尿病診療ガイドライン2019 (日本糖尿病学会編著),南江堂,2019; 329–345.

  2. 合併症ならびに併発症:急性合併症の病態,診断と治療.糖尿病専門医研修ガイドブック改訂第8版 (日本糖尿病学会編著),診断と治療社,2020; 284–294.