ⓔコラム16-2-5 新生児期~小児期発症の低血糖症
絶食時でもブドウ糖 (グルコース) は生命活動維持のために安定的に供給されることが要求される.絶食早期には膵β細胞からのインスリン分泌は十分抑制され,グルカゴン上昇に伴うグリコーゲン分解によりブドウ糖が供給され,絶食12時間以降はおもに肝糖新生がブドウ糖供給源となるが,これにはインスリン抑制に加えてグルカゴン,コルチゾール,カテコールアミンなどの拮抗調整ホルモン分泌の促進,さらに糖新生系を回すためのエネルギー供給が必要となる.このエネルギー供給に際して最も重要な役割を担っているのは脂質利用である.つまり脂肪酸のβ酸化がエネルギーを産生するのに必須の反応となり,β酸化による産物であるアセチルCoAはケトン体に変換されることで肝糖新生のエネルギー源として利用される.特に新生児期早期では一過性に上記機序のいずれかが未熟であることによって健常児であっても一過性の低血糖をきたしやすいことが知られている.
small–for–gestational–ageの新生児は肝糖新生能が未熟であるため,出生直後一過性の低血糖症を起こしやすい.出生体重によらず2~5歳までの乳児期でも同様の病態を起こしやすく,ケトン性低血糖症とよばれている.低血糖症状出現時は適量の糖質摂取で症状は改善し,肝糖新生能の成熟に伴って10歳頃までには自然寛解する.このほかに病態が類似している先天性糖新生関連酵素異常症としてピルビン酸カルボキシラーゼ,ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ,フルクトース‒1, 6‒ビスホスファターゼなどが知られている.
新生児高インスリン血症は,その頻度は3万~5万出生に1人程度で膵β細胞のATP感受性Kチャネルを構成しているKチャネル (Kir6.2) あるいは調節サブユニットであるスルホニル尿素受容体 (SUR1) の機能喪失型変異によるものが最も多い.ATP感受性Kチャネル作動薬であるジアゾキサイドは有効ではなく,低血糖症も重症で生後間もなく膵亜全摘術が必要になることが多い.
グルタミン酸脱水素酵素/グルコキナーゼ遺伝子の活性型変異でも高インスリン血症を伴った低血糖症を呈するが,前者と比べジアゾキサイドへの反応性が残存している.グルタミン酸脱水素酵素の活性型変異では高アンモニア血症を合併するのが特徴である.
糖原病Ⅰ(von Gierke病),Ⅲ,Ⅵ型では先天的な酵素欠損のためグリコーゲン分解能が低下するため絶食下で容易に低血糖となり,分解できないグリコーゲンが蓄積し肝脾腫を認める.Ⅰ型では就寝前のコーンスターチ食が低血糖予防に有効であり低血糖時のグルカゴン投与は無効である.
アミノ酸代謝異常 (メイプルシロップ尿症) では肝糖新生不全を合併し低血糖を合併する.脂肪酸酸化異常 (アシルCoA脱水素酵素欠損症など) では絶食時においても脂肪酸酸化を行うことができず,血中ケトン体の低下を伴った低血糖を呈する.血清カルニチンの低下は診断に有効である.有機酸代謝異常症でも続発性カルニチン欠乏を呈するため,長鎖脂肪酸がミトコンドリア内に入れず脂肪酸酸化異常と同様な病態で低血糖症を起こすことがある.
ガラクトース血症1型,遺伝性フルクトース不耐症では,乳糖 (ガラクトース) あるいは離乳食に含まれる果糖 (フルクトース) の先天的な代謝異常により二次的に肝糖新生障害をきたすことで低血糖を引き起こし,これらの除去食が治療では奏効する.
〔後藤広昌〕