ⓔコラム17-10-9 さまざまな治療法の比較と再発難治例の治療
イブルチニブ (IBR) は,図17-10-19に示すようにBTK (Burton Kinase) の阻害薬である.unfitのCLL患者の初回治療において,従来から用いられてきたCLBとの比較試験 (Resinate–2) において,PFSでもOSでもp53変異例を含めある有意にすぐれた成績を示した1).
化学免疫療法 (CIT) とIBRの比較では,きわめて重要な臨床試験の結果が相次いで報告された.
65歳以上のunfitの患者において,従来行われてきた化学免疫療法のBR (ベンダムスチン・リツキシマブ併用) 療法とIBR単独またはIBR+Rの第Ⅲ相無作為化比較試験 (Alliance A041202試験) が行われ,主要評価項目の無増悪生存 (progression free survival: PFS) において,観察期間の中央値37カ月でIBR,IBR+RのいずれもBRに有意にすぐれた結果を示した (図1)2).Rの有無でIBRの効果に差がなかった.血液毒性はBRに多く,非血液毒性はIBRで若干高い傾向があったが,概して安全に実施でき,65歳以上のunfitの患者において,IBR±R療法はBRを上回る効果を示す初回治療であることが明らかにされた.
FCR (プリンアナログのフルダラビン (fludarabine: F) とシクロホスファミド (cyclophosphamide: C) とリツキシマブ (rituximab: R) の組み合わせたFCR療法) の適応がある患者においては,FCRとIBR+R (IR) の第Ⅲ相無作為化比較試験 (ECOG–ACRIN E1912試験) の結果が報告され,主要評価項目のPFSのみならずOSにおいても,有意にIRがすぐれていた3).この差は予後不良とされるdel (11q) のある症例やIGHVの変異がない例でも明らかであったが,IGHV変異のない例ではFCR療法とは差がなかった.以上のことから,CLLの初回治療において,IBRはunfit,fitのいずれの場合でも第一選択となりうることが示され,抗癌薬の使用は必ずしも必要がないことが明らかになった.
IBRによる初回治療ではIGHVの変異の有無はもはや予後因子ではなかった2,3).
IBRは,高齢者やフレイルの患者でも多くの場合,安全に使用が可能である.しかしながら有害事象のために使用が困難な場合がある.特に注意すべきは,血小板機能抑制作用による出血と,不整脈の誘導,特に心房細動の合併である4).IBR投与開始後に出現した場合は,多くの場合コントロールが可能であるが,このような副作用があることを念頭において,注意深く経過を観察する必要がある.一方,投与前に心房細動がある例では,ワルファリンなどの抗凝固薬が使われていることがあり,出血が起こりやすい.まれに重篤な出血や致死性不整脈の報告もあるので,もともと心疾患を有する場合は,IBRの治療は避ける方が望ましい.抗凝固薬を使う場合は,いわゆる直接経口抗凝固薬 (DOAC) を用いる4).
IBRは,原則として治療開始後長期に用いる必要があり,増悪が確認されるまで (いわゆるuntil PD) 続けるのが一般的である2,3).
IGHV変異のある若年者例でp53変異/17p13欠失がない場合はFCR療法の効果はIBRと差がないとされ,高齢者のfitの場合はBR療法に同等の効果が期待される3).IBRが長期に治療を続けなければならないのに対し,FCR療法やBR療法は24週間前後で治療をやめることができるメリットがある.CLL8,CLL10の結果からは,一部の症例でCITによって治癒することも推定されている5,6).しかし一方では,殺細胞性薬剤の副作用や長期の安全性に問題があり,どの条件を満たす症例で治癒が得られるのかは不明であり,特定の症例ではCITを用いるべきなのか,全例IBRでいいのかは結論が得られていない.しかしながら,日本の日常診療で,IGHV変異の検索を行うことはできないことから,原則としてIBRを標準治療として用いることが強くすすめられる.
2020年の状況における日本でのCLLの治療アルゴリズムを図2に示す.
再発難治例の治療
CITで初回治療を行った場合の治療は,分子標的薬を用いる.特に前治療歴が2レジメンをこえた場合IBRの有効性が有意に低下することも明らかになっており,早期の使用が望ましい7).一方,初回治療にIBRを用いた場合の治療はIBRが継続している状態での再発と考えられるので,当然IBR以外の治療になる.IBR抵抗例にCITが有効かどうかは明らかになっていないが,特に増殖が激しい場合は,腫瘍量を減らすという意味で使用することもありうる.
現在の日本では,リツキシマブとは異なる抗CD20抗体のオファツムマブ (ofatumumab: ofa) が,再発難治CLLに適応を有し,CITや他の化学療法の再発・難治例に一定の効果は期待できる.IBRとofaの比較試験 (resonate試験) では,IBRの有効性がPFSでもOSでも高いことが明らかにされており,ofaの使用できる場面は少ない7).
IBRの先行投与の有無にかかわらず効果が期待されるのは,分子標的薬ベネトクラックス (venetoclax: Ven) と抗体薬の併用である8).Ven+リツキシマブ (VenR) 療法は,再発難治CLLに対して高い有効性を示し,日本でもすでに保険適用となっている.CLLではBCL2の高発現により,アポトーシス抑制のエフェクター蛋白質のBAX/BAKの抑制とBH3–only蛋白のBCL2への結合により細胞死が誘導されなくなっている.VenはBCL2を選択的に阻害し,BH3–only蛋白の遊離し抑制を解除するとともに,BAX/BAKの活性化しCLL細胞のアポトーシスを誘導する作用をもつ9).VenRとBRを比較したMURANO試験では,VenRはBRに比してきわめて大きな有意差でPFSを延長した8).Venの有害事象は,細胞崩壊がいっきに進むことによる腫瘍崩壊症候群だが,少量から開始する投与法の導入でその安全性は高まった.
〔青木定夫〕
■文献
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