ⓔコラム18-4-2 筋線維の伝導速度
筋線維は神経線維に比べ伝導速度が約10倍遅いため,CMAPの持続時間はSNAPの5倍以上になる.このため時間的分散の影響が両者で著しく異なる.わかりやすいように単純化し,伝導速度の若干異なる2本の神経 (速線維F,遅線維S) について考えてみる.SNAP (ⓔ図18-4-7),CMAP (ⓔ図18-4-6) のいずれも遠位刺激 (図中の白矢印) では刺激部位から筋までの距離が短いためFとSの潜時差はわずかで,よく同期し複合電位は大きくなる.近位部刺激の場合 (図中の黒矢印),距離の影響でSNAPでは電位の持続時間 (1 msec程度) に比べ潜時差が大きくなる (例えば上記の伝導速度では1 msecの差が生じる) ため遅い線維Sの上向き (陰性) 相と速い線維Fの下向き (陽性) 相が打ち消しあって遠位刺激に比べ著しく振幅が減衰する.このような現象を位相の相殺 (phase cancellation) とよぶ.神経線維の数が多いとこのように単純ではないが,複合神経活動電位の振幅が単純な振幅の和にならず,距離が長くなれば容易に減少することは理解できると思う.
〔幸原伸夫〕