ⓔコラム3-6-2 生活習慣とテロメア
高齢者ほど癌になりやすく,老化は癌の危険因子であるという疫学結果はすでに知られていた.血液細胞テロメア長計測を用いて,実際癌になった人ではテロメアが短くなって老化が体内で進んでいるかどうか,検討がなされた.多くの癌 (膀胱癌,肺癌,タバコ関連癌,消化管関連癌,泌尿器系癌など) に関して,テロメア長が短い人ほどそれら癌に罹患しやすいと判明した1).さらに,癌にとどまらず,加齢とともに増加するほかの生活習慣病に関して解析が進められた.テロメア最短群の冠動脈性心疾患と脳血管疾患の相対リスクはともに1.42と判明し,統計学的な有意差があることが確認された2).動脈硬化性疾患そのものや糖尿病,心不全などでもテロメア長の短縮が病状悪化要因であると判明した.興味深いことに,生活習慣病以外にも,テロメア短縮は,感染症罹患率やうつ病患者におけるうつ期間の長さ,酸化ストレス,炎症マーカー (IL–6) と相関することが判明している.
テロメア長を維持する生体機構として,テロメアDNA配列の付加を可能とする酵素テロメラーゼが見いだされた.テロメラーゼは,テロメアRNAを鋳型として,TTAGGGというDNA配列を付加するポリメラーゼ活性をもつ酵素であった.のちに,テロメラーゼを恒常的に発現するトランスジェニックマウスにおいて,正常型に比較して,さまざまな組織で癌や前癌病変が発生しやすいことが判明した3).テロメラーゼの異常活性化による細胞癌化は従来より危惧されており,米国で販売されているテロメア活性化サプリは,発癌性の危険が指摘されている.
薬剤以外では,生活習慣改善がテロメア長維持に有効と考えられている.ある臨床研究で,陸上競技ドイツ代表チームの若手アスリート群 (平均年齢20歳) と若い頃から持久運動を継続している中年群 (平均年齢51歳) と年齢が一致する定期的運動をしていない健康な非喫煙対照2群の合計4群で,白血球のテロメラーゼ活性やテロメア長を計測した.その結果,テロメラーゼ活性は,若年・中年ともに運動群で高く,テロメア長は中年では運動群の方が長い傾向があった4).さらに別の臨床研究では,男性30人に対し,包括的ライフスタイル改善の導入を試みた.脂肪を総カロリーの30%とし,全穀粒,野菜,果物を多く含む食事+ビタミンと魚油を補充し,中等度の有酸素運動,ストレス管理,リラクセーション療法,呼吸エクササイズなどを行った.研究開始前と3カ月後に血中テロメラーゼ活性を計測し,3カ月後に29%の増加を認めた5).以上より,テロメラーゼを過剰に活性化することは癌化のリスクを伴うが,生活習慣改善による適度な活性化は健康効果があると思われる.
〔近藤祥司〕
■文献
Ma H, Zhou Z, et al: Shortened telomere length is associated with increased risk of cancer: a meta–analysis. PLoS One, 2011; 6: e20466.
Haycock PC, Heydon EE, et al: Leucocyte telomere length and risk of cardiovascular disease: systematic review and meta–analysis. BMJ, 2014; 349: g4227.
Artandi SE, Alson S, et al: Constitutive telomerase expression promotes mammary carcinomas in aging mice. Proc Natl Acad Sci U S A, 2002; 99: 8191–8196.
Werner C, Fürster T, et al: Physical exercise prevents cellular senescence in circulating leukocytes and in the vessel wall. Circulation, 2009; 120: 2438–2447.
Ornish D, Lin J, et al: Increased telomerase activity and comprehensive lifestyle changes: a pilot study. Lancet Oncol, 2008; 9: 1048–1057.