ⓔコラム5-1-3 鑑別と特殊な病型
発熱があるのにCRP正常のときの鑑別
発熱があるにもかかわらずCRPが正常ということをときに経験する.最初に確認すべきは本当に発熱なのかということである.詐熱の可能性がときにある.
高熱を呈しCRP正常の患者において髄液検査をすると,無菌性髄膜炎と判明することがある.なぜだろうか.中枢神経へのウイルス感染は,グリア細胞などから炎症性サイトカインの産生を誘導する.動物実験では,脳内にサイトカインを投与すると全身投与よりも低い濃度で発熱が起こることが示されている.脳出血や外傷でも局所でのサイトカイン産生により発熱が起こると考えられている1).これは以前から中枢性発熱 (central fever) として認識されていた.ゆえに,全身的なサイトカイン血症にならない状態 (肝臓で急性期蛋白質が産生されずCRPは正常) で発熱を呈するメカニズムが考えられる.
一方,発熱があるにもかかわらずCRP正常,かつ非ステロイド性抗炎症薬 (non–steroidal anti–inflammatory drugs: NSAIDs) が効かない発熱患者が存在する.このような患者で心理ストレスが発熱の原因ということがある.これは以前から心因性発熱 (psychogenic fever) として知られていたが,最近では心理ストレス性体温上昇 (psychological stress–induced hyperthermia: PSH) という概念が提唱されている.PSHでは感染症などにおける発熱とは異なるメカニズムで体温上昇が起こると考えられている.ラットに心理ストレスモデルである社会的敗北ストレスを与えた研究から,心理ストレスが視床下部背内側部から脊髄縫線核の交感神経プレモーターニューロンへの神経伝達を亢進させ,褐色脂肪細胞での熱産生,脈拍増加,血圧上昇などの交感神経性のストレス反応を引き起こすことがわかってきた2).PSHでは体温が41℃まで上昇することもあり,女性に多いとされる3).NSAIDsでなく,鎮静薬,選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (selective serotonin reuptake inhibitor: SSRI) などで体温が正常化する.
特殊な病型
ⅰ) 悪性症候群 (neuroleptic malignant syndrome: NMS): おもに向精神病薬の開始,中断や再開などにより,高熱,意識障害,筋強剛,横紋筋融解などをきたす.向精神薬のなかでもドパミンD2受容体阻害作用の強い薬剤ほどNMSを引き起こしやすいとされる.正確な機序は不明であるが,ドパミン受容体遮断説とドパミン・セロトニン不均衡説がある4).診断は大症状 (発熱,筋強剛,クレアチンキナーゼ (creatine kinase: CK) 上昇),小症状 (頻脈,血圧異常,頻呼吸,意識障害,発汗,白血球増加) のうち,大症状3つ,あるいは大症状2つと小症状4つ以上を満たした場合とされる5).治療は被疑薬の中止,脱水補正,全身冷却,呼吸管理などの全身管理,ダントロレンの投与である.
ⅱ) 悪性高熱症 (malignant hyperthermia): 揮発性吸入麻酔薬 (ハロタンなど) や脱分極性筋弛緩薬 (スキサメトニウムなど) により誘発される常染色体顕性 (優性) 遺伝の潜在的骨格筋疾患である.骨格筋小胞体のCa放出チャネルから細胞質内へのCa放出が増大し発症する.骨格筋内の代謝が亢進し,二酸化炭素,乳酸,熱が産生される.頻脈,不整脈,急激な体温上昇 (0.5℃/15分以上),終末呼気CO2分圧の上昇,呼吸性・代謝性アシドーシス,筋強直,横紋筋融解が生じる.体温が40℃をこえることもある.高熱により細胞膜が破壊され,CK,K,ミオグロビンが血中に放出される.骨格筋からCa放出を抑制するダントロレンが特異的治療薬である.
〔松村正巳〕
■文献
Sajadi MM, Romanovsky AA: Temperature Regulation and the Pathogenesis of Fever. Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases 9th ed (Bennett JE, Dolin R, et al eds), Elsevier, 2019; 777–789.
Nakamura K: Neural circuit for psychological stress–induced hyperthermia. Temperature, 2015; 2: 352–361.
Oka T: Psychogenic fever: how psychological stress affects body temperature in the clinical population. Temperature, 2015; 2: 368–378.
日域広昭,山下英尚,他:薬物副作用による神経・筋障害,4.悪性症候群.日本内科学会雑誌,2007: 96: 1627–1633.
Levenson JL: Neuroleptic malignant syndrome. Am J Psychiatry, 1985; 142: 1137–1145.