ⓔコラム5-29-1 血小板血栓形成のメカニズム (図1)
血小板は造血幹細胞から巨核球分化を経て,骨髄から産生される無核の血球成分である.赤血球の次に多い血球成分で,その寿命は1週間程度と短い.骨髄での血小板産生低下や広範な微小血栓などでは血小板数が低下して出血傾向に結びつく.血小板は流血中では互いが結合しないが,血管損傷部位に結合したvon Willebrand因子 (VWF) に血小板膜上の糖蛋白質 (GP)Ⅰb複合体を介して粘着する.流血中では,VWFは血小板とは結合しないが,血管損傷部位のコラーゲンに結合し,血流により構造が伸展すると血小板との結合部位が露出して血小板GPⅠb複合体と結合することができる.これが,血流の速い動脈での血栓症に血小板血栓が重要な一因である.このVWFの量的・質的異常がvon Willebrand病 (VWD),GPⅠb複合体の遺伝的異常がBernard–Soulier症候群である.その後,血小板は局所のトロンビンやコラーゲンによって細胞内に活性化シグナルが伝達され,最終的にGPⅡb/Ⅲa (インテグリンαⅡb/β3) が構造変化することで,フィブリノゲンとの親和性が亢進して血小板同士が凝集して一次止血栓を形成する.血小板の細胞内にはα顆粒や濃染顆粒といった顆粒内容物が含まれており,活性化とともに顆粒内容物を細胞外に放出する.顆粒内容物には,血小板を活性化する物質や血栓形成を修飾するさまざまな物質が含まれており,自身・周囲の血小板のさらなる活性化や血栓の修飾に寄与している.GPⅡb/Ⅲaの遺伝的異常が血小板無力症,血小板内顆粒の遺伝的な異常がstorage–pool病として知られている.
〔大森 司〕