ⓔコラム5-29-2 凝固因子血栓形成のメカニズム (図1)
凝固因子は肝臓からつくられる蛋白質である.最終的にはフィブリノゲンがトロンビンによって線維状のフィブリンになる.通常は,この凝固因子の反応は活性化した血小板の膜上で起こる.血小板の細胞膜は陰性荷電の強いホスファチジルセリン (PS) が細胞の内側に存在するが,活性化に伴ってPSが外側に露出するようになり (flip–flopとよばれる反応),ここに凝固因子が結合可能になる.このPSの露出ができない出血性疾患がScott症候群である.逆に活性化血小板の膜上ではなく,微小血管の内腔で凝固因子カスケードが進行してしまう病態が播種性血管内凝固症 (disseminated intravascular coagulation: DIC) である.凝固因子の反応はカスケードとよばれ,上流の凝固因子が下流の凝固因子を徐々に活性化させ,反応を増幅させていく.多くの凝固因子は酵素活性をもち,下流の凝固因子を切断して活性化させる.
凝固因子カスケードは,外因系,内因系,共通系に大別される.外因系は血液凝固第Ⅶ因子の活性化による反応であり,凝固因子カスケードはこの外因系から開始される.内因系は血液凝固第Ⅻ因子から開始される.内因系,外因系ともに,共通系の血液凝固第Ⅹ因子を活性化させる反応を促進するが,内因系による反応の方が50倍以上強力である.凝固因子カスケードを車に例えると,外因系はエンジンを始動させ,内因系は車のアクセルに相当すると考えると理解しやすい.
凝固因子のなかでも第Ⅴ因子,第Ⅷ因子は酵素活性のない補因子として作用する.これらの因子は酵素とその基質となる凝固因子を活性化した血小板の膜上で近づけることで,その酵素活性を10万倍以上亢進させる.第Ⅷ因子であれば,その活性化に伴い,血小板膜上で酵素となる活性化第Ⅸ因子と基質となる第Ⅹ因子との複合体を形成させる.
共通系カスケードの進行によって,血栓形成部位ではトロンビンが産生される.トロンビンはフィブリノゲンの頭に相当するフィブリノペプチドA,Bを切断する.このフィブリノペプチドに相当する部位は陰性荷電に富み,流血中でフィブリノゲンが結合しないように作用している.トロンビンでできたフィブリン同士は血液凝固第Ⅷ因子の作用により強固に結合し,最終的なフィブリン血栓が形成される.それぞれの凝固因子の遺伝的異常が存在するが,第Ⅷ因子,第Ⅸ因子が異常となる血友病 (第Ⅷ因子異常が血友病A,第Ⅸ因子異常が血友病B) はX染色体に遺伝子が存在するため,頻度が高い.ほかの凝固因子異常は比較的まれな疾患である.第Ⅻ因子異常は活性化部分トロンボプラスチン時間 (activated partial thromboplastin time: APTT) が極度に延長するが,出血傾向は呈さない.
〔大森 司〕