ⓔコラム5-37-1 喀血・血痰の原因
感染症では,ウイルス・細菌・抗酸菌・真菌・寄生虫感染に伴う気管支粘膜や肺実質・血管の損傷により出血を生じる.ウイルス性気管支炎でも粘膜の炎症により血痰を生じる.細菌感染では,ブドウ球菌やGram陰性桿菌 (かんきん) は壊死性肺炎を生じやすく,喀血・血痰が生じやすい.結核性空洞内の拡張した肺動脈であるRasmussen動脈瘤は,結核蔓延国では,現在も大喀血の重大な原因である.近年増加傾向にある肺非結核性抗酸菌症も,結核と同様に,喀血・血痰の原因として頻度が高い.真菌では,肺アスペルギルス症,特に肺アスペルギローマでは喀血・血痰を繰り返し,大喀血もしばしば生じることがあり注意が必要である.寄生虫では,肺吸虫症で喀血を認めることが多い.
原発性肺癌では,中枢気道に病変を生じる頻度の高い扁平上皮癌.小細胞癌で喀血・血痰の頻度が高い.転移性肺腫瘍では頻度は低い.カルチノイド腫瘍は,比較的太い気管支に発生し,血流が豊富であるため喀血・血痰を生じやすい.後天性免疫不全症候群 (acquired immunodeficiency syndrome: AIDS,エイズ) において肺陰影があり.血痰を認める場合は,種々の肺感染症に加えて肺Kaposi肉腫も考慮する必要がある.
心・血管疾患では,心不全,僧帽弁疾患に伴う肺水腫で,ピンクの泡沫状の血痰を認めることがある.肺血栓塞栓症では肺梗塞を伴っている場合に喀血・血痰を認める.肺動静脈奇形は,破裂による喀血を契機に発見される場合もある.胸部大動脈瘤の気管・気管支への穿破はほぼ致死的である.
血管炎では,抗好中球細胞質抗体 (antineutrophil cytoplasmic antibody: ANCA) 関連血管炎,Goodpasture症候群,全身性エリテマトーデス (systemic lupus erythematosus: SLE) などで肺毛細血管の炎症により肺胞出血を認める場合がある.
特発性肺ヘモジデローシスは原因不明の肺胞出血を繰り返す疾患で,造血幹細胞移植後にもびまん性肺胞出血をきたすことがある.なお,肺胞出血では,喀血・血痰が認められない場合もあり注意が必要である.
気管支拡張症は,喀血・血痰の原因として最も頻度の高い原因の1つである.気管支の慢性炎症に伴い気管支粘膜下に増生した気管支動脈が,何らかの刺激に伴い破綻し,喀血・血痰を生じる.アミロイドーシスでは,血管壁にアミロイドが沈着して脆弱化し,収縮能も障害されて出血を生じやすくなると考えられている.肺子宮内膜症では,月経周期に伴って喀血・血痰を生じ,肺リンパ脈管筋腫症でも血痰を認める.
さまざまな凝固異常に伴う出血傾向のほか,火災における気道熱傷や有害物質の吸入も気道出血・肺胞出血の原因となる.
気管支鏡,経皮肺生検,Swan–Ganzカテーテル検査などの検査や外傷による肺組織・血管の損傷で喀血・血痰が生じうる.
〔大石展也〕
■文献
福井次矢,黒川 清日本語版監修:ハリソン内科学 第5版.メディカル・サイエンス・インターナショナル,2017; 251–253.
日本呼吸器学会:新呼吸器専門医テキスト.南江堂,2015; 34–36.
髙久文麿,和田 攻監訳:ワシントンマニュアル 第13版.メディカル・サイエンス・インターナショナル,2015; 359–365.
大石展也:喀血.診断と治療,2000; 88: 1513–1522.