ⓔコラム5-42-1 蓄尿と排尿の生理

 蓄尿時と排尿時には膀胱と尿道の協調作用があるが,この機能の大部分は,脳幹部の橋排尿中枢以下の自律神経系の反射制御による.さらに大脳による橋排尿中枢への制御が加わり,随意的な排尿の抑制,開始が可能となる (図1).

 下部尿路は中枢神経系および骨盤神経 (副交感神経),下腹神経 (交感神経),陰部神経 (体性神経) の3種類の末梢神経の制御を受けている.副交感神経遠心路の節前ニューロンは仙髄 (S2–S4) の中間外側核に局在し,骨盤神経を経由して直腸の外側を通って下腹神経と合流し,膀胱尿道近傍で骨盤神経叢を形成する.節後ニューロンは骨盤神経叢や膀胱壁内にあり,この副交感神経の刺激により,膀胱収縮が起こる.交感神経遠心路の起始核は,胸腰髄 (Th10–L2) に存在し,下腹神経を経由して膀胱にはβ3–アドレナリン受容体 (AR) を介して抑制性入力を,膀胱頸部と尿道にはα1–ARを介して興奮性入力を送り,蓄尿促進に働く.

 下部尿路の求心性神経線維にはAδ線維とC線維があり,膀胱の伸展受容器の役割を果たすが,通常の感覚刺激は前者を介して伝えられる.C線維は脊髄損傷や間質性膀胱炎などの病的状態で興奮するが,これには,膀胱尿路上皮からアデノシン三リン酸 (adenosine triphosphate: ATP),プロスタグランジン,アセチルコリン,ニューロキニン (刺激物質),NO (抑制物質) などが放出され,それが,粘膜下に存在する筋線維芽細胞 (myofibroblast) を活性化させて,求心性C線維を活性化すると考えられている.

 尿道括約筋には尿道平滑筋と尿道横紋筋がある (これはさらに外尿道括約筋と尿道周囲筋,すなわち骨盤底筋に分かれる).体性神経遠心路は仙髄 (S2–S4) Onuf核から陰部神経経由で外尿道括約筋の緊張制御に関与する.

図1 下部尿路機能の神経支配. 蓄尿時:膀胱の尿貯留による膀胱伸展の知覚刺激は骨盤求心性神経 (A δ 線維) を介して,仙髄排尿中枢に到達する.その信号は脊髄を上行し,脳幹 (中脳水道周囲灰白質) から大脳 (感覚野) に達する.正常な排尿 (膀胱収縮) 反射は脳幹 (橋排尿中枢) を介しての反射 (脊髄–脳幹–脊髄反射) になる.蓄尿時は大脳 (特に前頭葉) が,橋排尿中枢に対し抑制しているため,排尿反射が抑制されている.同時に仙髄陰部神経 (Onuf) 核が刺激され,外尿道括約筋が持続的に収縮する. 排尿時:排尿を意図すると,大脳から仙髄陰部神経 (Onuf) 核に対して抑制が起こり,尿道が弛緩する.同時に,橋排尿中枢に対する抑制が解除され,逆に促進中枢への刺激が起こるために排尿反射が開始される.

〔山西友典〕