ⓔコラム7-11-4 トリコモナス症

定義・概念

 トリコモナス症 (trichomoniasis) はトリコモナス類原虫による疾患の総称である.ここでは腟トリコモナス症を除くトリコモナス類による感染症を概観する.腟トリコモナス以外のヒトを宿主とするトリコモナス類としては,トリコモナス綱 (Trichomonadea) の口腔トリコモナス,腸トリコモナスとトリトリコモナス綱 (Tritrichomonadea) の二核アメーバが知られる.このうち病原性を示すのは二核アメーバのみである.

 二核アメーバ以外のヒト症例としては,呼吸器トリコモナス症とよばれる喀痰や肺胞洗浄液,胸水などからのトリコモナス類の検出がある.おもに口腔トリコモナスの異所寄生が原因となるが,鳥類などのヒト以外の生物を本来の宿主とするトリコモナス類の偶発寄生例もある.症状へのトリコモナス類感染の関与の有無は定まっていないが,メトロニダゾールによる治療が症状を改善した症例がある.

原因・病因

 二核アメーバ (Dientamoeba fragilis) は下痢症を主徴とする二核アメーバ症 (dientamoebiasis) の原因原虫である.本原虫は基本的に栄養型のみが糞便中に検出されるが,運動性がほとんどないために直接法での検出はきわめて困難である.また,栄養型は採取後急速に変性するため,新鮮便の塗抹検体を適切に固定しGiemsa染色などで可視化する必要があり,形態検出の難易度が高い.

疫学

 疫学研究では途上国ばかりでなく先進国でも本原虫の蔓延が認められ,また,感染時の下痢の発症率がジアルジアよりも高い可能性が示唆されている.国内では蛋白漏出性胃腸炎に本原虫を検出した1例のみが報告されている.

臨床症状

 ジアルジアと同様に無症候性感染をみる.いったん発症すると70%以上で下痢,腹痛を認めるが,悪心・嘔吐や発熱は10%以下である.感染者の30%以上が2週間以上の慢性感染に移行したとする報告もある.

診断・鑑別診断

 新鮮糞便の塗抹固定標本のGimsa染色の鏡検により栄養型の検出が可能.また,専門研究室ではPCR検査の実施も可能.

治療

 ヨードキノール (国内未承認薬) の経口投与,あるいは,パロモマイシンもしくはメトロニダゾールの1週間から10日間の経口投与 (いずれも保険適用外) を実施.いずれの治療もその有効性は証明されていないが有効率は約80〜100%とされる.メトロニダゾールでは治療失敗例が比較的多い.テトラサイクリン系抗菌薬が有効との報告もある.治療後の再発がみられるため,治療終了時および一定期間後の再検査が必須である.

予防

一般的な糞口感染対策が有効.

〔所 正治〕

■文献

  1. Cepicka I: Critical taxonomic revision of Parabasalids with description of one new genus and three new species. Protist, 2010; 161: 400–433.

  2. Stark D: Dientamoeba fragilis, the Neglected Trichomonad of the Human Bowel. Clin Microbiol Rev, 2016; 29: 553–580.

  3. Maritz JM: What is the importance of zoonotic trichomonads for human health? Trends Parasitol, 2014; 30:333–341.