ⓔコラム8-4-3 疾患関連SNPの今後の課題

 このようにGWASで検出されるSNPは蛋白質コード領域でないことが多いこと,ゼブラフィッシュやマウスなどのモデル動物で保存されていない領域にあること,1つの疾患感受性座位に存在する原因遺伝子数とその独立性が不明であること,ヒトモデルである不死化ヒト培養細胞やiPS細胞を用いたとしても効果が小さいためその検出は困難であることなど,機能解析にはいくつもの問題が立ちはだかる.また1つひとつに対してこのような実験を繰り返していたのでは,多くの金銭的時間資源を費やさなくてはならない.そのため,ヒトの環境を再現でき,かつ一度に多くの遺伝的多型の効果を検出できる高速かつ多重実験系の確立が急務となっている.

 疾患感受性座位から原因となる領域を同定するために,連鎖不均衡情報やほかのミックス情報を用いて領域の絞り込み (fine–mapping) を行うことがある.実際,GWASで検出される疾患感受性座位はプロモーターやエンハンサーなど遺伝子発現制御領域にあることが多く1,2),その状況が正しいと仮定してさまざまな組織・細胞種のエピゲノム情報を参照してfine–mappingを行う3)だけでなく,疾患関連組織・細胞の同定も行うことができる4).また前述した網羅的な遺伝子発現情報を用いたeQTL analysis5)や,ゲノムの三次元空間立体構造を明らかにするHi–C解析6)などによって,疾患感受性座位から原因となる遺伝子,遺伝的多型を同定することができるようになってきた.また連鎖不均衡ブロックの異なる民族間でメタ解析を行うことによって,fine–mappingができるという報告7)もあり,今後も新しいfine–mapping法の開発が期待される.

 complex diseaseのゲノム解析は巨大なバイオバンクの登場やGWASという手法の成熟により,大きな進歩をみせてきた.しかしながら,現在までに行われた遺伝解析の多くは欧米人集団によるもので,その他の非欧米人の結果の蓄積は多くない8).実際,連鎖不均衡地図や遺伝的多型の頻度など民族により遺伝的基盤が異なることが知られており,欧米人だけのゲノム解析では,その他の民族固有の遺伝的背景を知りえないだけでなく,非欧米人に固有の遺伝的多型の影響を知る機会も失われてしまう.このような状況を覆すために,非欧米人のバイオバンクの整備とゲノム解析を推進していくことが重要と考えられる.

〔伊藤 薫〕

■文献

  1. Maurano MT, Humbert R, et al: Systematic localization of common disease-associated variation in regulatory DNA. Science, 2012; 337: 1190–1195.

  2. Gallagher MD, Chen–Plotkin AS: The Post-GWAS Era: From Association to Function. Am J Hum Genet, 2018; 102: 717–730.

  3. Pickrell JK: Joint analysis of functional genomic data and genome–wide association studies of 18 human traits. Am J Hum Genet, 2014; 94: 559–573.

  4. Gerasimova A, Chavez L, et al: Predicting cell types and genetic variations contributing to disease by combining GWAS and epigenetic data. PLoS One, 2013; 8: e54359.

  5. Zhu Z, Zhang F, et al: Integration of summary data from GWAS and eQTL studies predicts complex trait gene targets. Nat Genet, 2016; 48: 481–487.

  6. Javierre BM, Burren OS, et al: Lineage-Specific Genome Architecture Links Enhancers and Non–coding Disease Variants to Target Gene Promoters. Cell, 2016; 167: 1369–1384.

  7. Morris AP, Le TH, et al: Trans–ethnic kidney function association study reveals putative causal genes and effects on kidney–specific disease aetiologies. Nat Commun, 2019; 10: 29.

  8. Martin AR, Kanai M, et al: Clinical use of current polygenic risk scores may exacerbate health disparities. Nat Genet, 2019; 51: 584–591.