ⓔコラム8-4-4 エピゲノム情報の評価とジェノタイピング

 遺伝的多型間での相互作用 (epistasis) や環境因子の相互作用は,GWASのモデルとして遺伝子をG (gene),環境要因をE (environment) とすると,G×GやG×Eなどの相互作用モデルに組み込むことによって評価可能となる1).しかしながらこれらの相互作用は,詳細なメカニズムを検討するうえで重要であるが,遺伝率の主要な部分を占めることはない2)と考えられている.DNAのエピジェネティックな修飾は,環境要因によって変化するものと,DNA配列同様安定して遺伝するものが存在することが知られており3),後者は遺伝率の一部を説明するものと思われる.そのためゲノム情報だけでなく,エピゲノム情報も評価していく必要性がある.

 マイクロアレイ技術を用いたジェノタイピングでは,1枚のチップに載せられるプローブの数が有限であるため,一部の特化したマイクロアレイを除いて低頻度または希少な遺伝的多型までカバーすることができなかった.しかしながら,一度に読めるリードの長さは数百塩基と短い (ショートリード) が,スループットが莫大である第2世代シークエンサー (第2世代以降は”次世代シークエンサー”とよばれることが多い) の登場と進歩によって,希少な遺伝的多型も含めて全ゲノムにわたって評価することが可能となった.このようなシークエンシング技術は,ゲノム上にあるSNPだけでなく,短い数塩基の挿入 (insertion) または欠失 (deletion) またはCNVのようなSVもとらえることができる.しかしながらショートリードの第2世代シークエンサーは,巨大なSVや繰り返し配列が続くようなセントロメア部分などのゲノム配列は読むことができない.それらを克服すべく,1つのリードの長さが数キロ塩基~数百キロ塩基読める (ロングリード) 第3世代シークエンサーが登場した.このようなシークエンサーの登場により,いままで未知であった領域の配列も決定できるようになるため,新たな遺伝的リスクも評価できるようになることが期待される4).しかし,ジェノタイピングコストがマイクロアレイに比べて高価であるため,シークエンシングによって遺伝型を評価されたサンプル数の規模がいまだマイクロアレイに比べて小さく,今後もサンプル数を継続的に増加させていく必要がある.

〔伊藤 薫〕

■文献

  1. Wei WH, Hemani G, et al: Detecting epistasis in human complex traits. Nat Rev Genet, 2014; 15: 722–733.

  2. Génin E: Missing heritability of complex diseases: case solved? Hum Genet, 2020; 139: 103–113.

  3. Heard E, Martienssen RA: Transgenerational epigenetic inheritance: myths and mechanisms. Cell, 2014; 157: 95–109.

  4. Midha MK, Wu M, et al: Long-read sequencing in deciphering human genetics to a greater depth. Hum Genet, 2019; 138: 1201–1215.