ⓔコラム8-4-6 サルコメア遺伝子変異がHCMをきたす機序
サルコメア遺伝子変異がHCMをきたす機序に関して検討が進められている.サルコメア蛋白遺伝子にみられる原因変異のほとんどはミスセンスないしは小欠失である.コードされた変異蛋白は安定的に心筋線維に取り込まれ,サルコメア機能の障害をきたす.単離した変異ミオシン分子を用いた解析では,ATPase活性は亢進,発生する力は大きくなり,アクチンフィラメントのスライディングは速くなる.これらの変化はHCM早期にみられる収縮亢進状態をよく説明する.stiff sarcomere,ストレッチ反応の亢進,カルシウムイオン感受性亢進が病態に関与しているという説が提唱されている.心肥大発症前の早期段階から心筋間質で線維化反応亢進 (TGF–β1の活性化など) がみられ,病態形成に重要な役割を果たすこともわかってきた.これらの結果をふまえて,カルシウム代謝を是正する薬剤としてジルチアゼム (Ca拮抗薬),線維化反応亢進を是正する薬剤としてロサルタン (アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬,angiotensin Ⅱ receptor blocker: ARB) の効果がHCMモデルマウスで検証され有効であることが明らかになっている.
〔森田啓行〕