ⓔコラム8-6-4 大規模臨床試験

 ACE阻害薬は心不全例,心筋梗塞例の予後を改善するが,その効果はリモデリングなどの構造的異常の進行抑制だけでなく,交感神経活動の抑制,副交感神経の賦活化,低カリウム血症の予防による抗不整脈効果も存在すると考えられており,Domanskiらによるメタ解析では,心筋梗塞例へのACE阻害薬投与による突然死の減少が認められた1).また,HOPE試験では,総死亡の減少と,心停止の減少が認められた2)

 一方,同じレニン–アンジオテンシン系阻害薬でもARBではELITE試験において,総死亡,突然死ともに少ないという結果が得られたが,のちに行われたより大規模なELITE Ⅱ試験では,有意差は認められず一貫したデータはない.

 アルドステロン受容体拮抗薬は,心筋線維化の抑制,カリウム保持作用により抗不整脈的に働く.RALES試験ではスピロノラクトン群で総死亡の減少と,突然死の減少が認められた3).EPHESUS試験でも,エプレレノン群で総死亡と,突然死が有意に少ないことが報告された4)

 n–3系多価不飽和脂肪酸は観察研究において血中濃度が高いほど,突然死のリスクが低いことが報告されている.しかし,薬剤による補充療法または食事療法の意義に関しては,総死亡,突然死ともに有意な効果は認められていない.

 スタチンも,pleiotropic effectとして抗不整脈効果があることが推察されている.心筋梗塞後のLVEF 30%以下の症例を対象に,ICDの有用性を検証したMADIT–Ⅱ試験のサブ解析では,スタチン投与群の方が非投与群よりも心室性頻拍 (ventricular tachycardia:VT)/VF発症頻度が低かったことが報告されているが,メタ解析の結果からは,スタチン投与群とプラセボ群の比較と,高用量スタチン投与群と低用量スタチン投与群が比較され,スタチンによる突然死の減少が認められたが,VT/VFと心停止に関しては有意差がなく,突然死予防効果は否定的である.

〔草野研吾〕

■文献

  1. Domanski MJ, Exner DV, et al: Effect of angiotensin converting enzyme inhibition on sudden cardiac death in patients following acute myocardial infarctionA meta–analysis of randomized clinical trials. J Am Coll Cardiol, 1999; 33: 598–604.

  2. Yusuf S, Sleight P, et al: Effects of an angiotensin–converting–enzyme inhibitor, ramipril, on cardiovascular events in high–risk patients. The Heart Outcomes Prevention Evaluation Study Investigators. N Engl J Med, 2000; 342: 145–153.

  3. Pitt B, Zannad F, et al: The effect of spironolactone on morbidity and mortality in patients with severe heart failure. Randomized Aldactone Evaluation Study Investigators. N Engl J Med, 1999; 341: 709–717.

  4. Pitt B, Remme W, et al: Eplerenone, a Selective Aldosterone Blocker, in Patients with Left Ventricular Dysfunction after Myocardial Infarction. N Engl J Med, 2003; 348: 1309–1321.