ⓔコラム8-8-2 症状悪化因子
過粘稠症候群
鉄欠乏性貧血が出現しやすく過粘稠度症候群を増悪する可能性があり,瀉血の適応は限定され,繰り返す瀉血は慎重であるべきである.症状のある例,抜歯ないし外科治療予定者でHt 65%以上で出血傾向がある例で適応される.
出血と血栓症
喀血と深部静脈血栓症,脳塞栓症,肺動脈血栓などが問題となる.出血性合併症の問題から,ルーチンでの抗凝固療法,抗血小板療法は推奨されていない.
酸素療法とフライト
長期酸素療法は,本症の症状,運動能,予後を改善しないと報告され,鼻出血の合併症もあり,一般には推奨されていない.2000 m程度の商業的フライトでは,耐えられる範囲とされる.長期の高地在住は,悪化因子である.
心不全
脱水予防,激しい等尺性運動の禁止,適度な運動,感染予防 (インフルエンザワクチン,心内膜炎予防),非心臓手術の専門施設での管理,心房性不整脈への対応が重要である.ジゴキシンの有効性を示すエビデンスは乏しい.
妊娠出産
妊娠は一般に母児ともに危険であり,妊娠分娩は禁忌である.妊娠により体血管抵抗の低下と循環血液量の増加がみられ,妊娠後期には約50%の心拍出量増加があり,子宮収縮により60~80%の増加におよび,右左短絡増加,心不全の顕在化などが問題となる.実際母体への影響は,妊娠分娩にかかわる母体死亡は45%と高く,その大部分は分娩中ないし産後1週間以内である.死因は血栓,塞栓症が44%,hypovolemia 26%,血行動態不適応,血栓傾向の問題が反映される.児についても,自然流産20~40%,早産50%と問題があり,満期産は25%にとどまる.出生しても30%は胎内発育遅延を認め,周産期死亡率は8~28%と高く,胎児期ないし周産期の酸素,血流供給障害を反映する.妊娠前の酸素飽和度 (>85%) は生産児出産のための因子である.
〔三谷義英〕