ⓔコラム9-2-4 大動脈瘤と大動脈解離
発症のメカニズム
動脈壁は内膜,中膜,外膜の3層構造からなる.高血圧や喫煙,糖尿病,脂質異常などがあると,内膜に破綻をきたし,ここが解離のエントリー (入口,はじまり) になる.丈夫な外膜が保たれつつ中膜組織の破壊が進行すると,それが解離腔 (偽腔) を形成する.こうして,解離腔 (偽腔) と本来の血流である真腔からなる大動脈解離が発生する (図1).解離を伴わずに大動脈が瘤状に拡大したものを大動脈瘤とよぶ.大動脈脈瘤に解離を合併することもあれば合併しないこともあり,大動脈解離に瘤を合併することもあればしないこともある.粥腫 (じゅくしゅ) (プラーク) によって大動脈内腔が狭小化すると,大動脈は内腔を確保しようとして代償的にその部位を拡張させる (血管リモデリング).これが大動脈瘤の原因になる.このほか,血行力学的ストレスが内膜にエントリーをつくって解離を引き起こすと考えられることから,高血圧,心拍動によるwater–hammer効果,脈圧差 (収縮期血圧と拡張期血圧の差),ずり応力 (血流の方向に内腔面から血管に向かってかかる力),乱流,狭窄後のジェット血流などが,大動脈瘤や大動脈解離の原因と考えられる.
真性動脈瘤と仮性動脈瘤と解離性動脈瘤
大動脈壁が脆弱化して局所的に全周性または一部が拡張した状態を大動脈瘤とよぶ.一般に,大動脈の外径の直径が正常部位の1.5倍 (目安として胸部大動脈系45 mm,腹部大動脈30 mm) をこえた状態を大動脈瘤と定義する.大部分は無症状のままに経過し,健診や医療機関受診の際の視診や触診,胸部X線写真正面像における縦隔拡大や側面像における拡大,腹部触診や腹部超音波 (図2) やCT (図3),MRI (図4) で発見され診断される.瘤の形状によって,紡錘状あるいは囊状,また壁構造の違いによって,瘤が内膜・中膜・外膜の3層すべてを有する真性動脈瘤と,中膜平滑筋層の連続性が失われ外膜や結合組織によって被包されている仮性大動脈瘤に分類される (図5).大動脈壁脆弱化の原因としては,外傷,梅毒,Marfan症候群などもあるが,最も大きな割合を占めるのは高血圧と加齢に伴う動脈硬化性変化であり,高齢男性に多い.大動脈瘤が解離したり破裂したりすると,激烈な胸背部痛や腹痛を訴えたり,血圧低下しショックに陥ったりする.いったんショック状態に陥った症例はもちろんのこと,病院に搬送されたとしても救命できる可能性は50%以下とされる.瘤径拡大スピードが高いほど,瘤形状が全体的でなく部分的であるほど,また当然,血圧が高いほど破裂リスクは高い.
破裂を防ぐには瘤径の増大に注意しながら,厳格な血圧コントロールが必要である.大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン (2011年改訂版) で示された胸部および腹部大動脈瘤の慢性期診療指針によると,胸部では瘤の部分の直径60 mm以上,腹部では瘤の直径50 mm以上で破裂リスクが高いと判断され,早期手術の適応となる.なお,直径50 mm未満の胸部大動脈瘤,直径40 mm未満の腹部大動脈瘤では,1~12カ月間隔でCTや超音波検査を行って,年間5 mm以上の拡大を認めるときは手術適応になる.
胸部大動脈解離の分類
一般的に,上行大動脈に解離のあるStanford A型は人工血管置換術など手術適応になることがほとんどである (表1,図6).一方,上行大動脈に解離のないStanford B型は降圧薬による保存療法になることがほとんどである.Stanford A型解離では,冠動脈に解離が進行して急性心筋梗塞を併発したり,大動脈弁に解離が及んで大動脈弁閉鎖不全を併発することもある.頸動脈や鎖骨下動脈に解離が及べば,脳梗塞や上肢の麻痺をきたすこともある.このほか大動脈の分枝に解離が及べば,腹部虚血 (アンギーナ) や腎梗塞など,その部位に応じた症状をきたしうる.
〔加藤 徹・野出孝一〕