パキスタン以東のアジア(旧ソ連領中央アジアを含む),オセアニアおよび両極圏の約11,800地名を収録
【収録国・地域】インド,インドネシア,ウズベキスタン,オーストラリア,カザフスタン,カンボジア,韓国,北朝鮮,キリバス,他
2017年11月刊行
1巻:A4変型判/1248頁/ISBN 978-4-254-16891-4
編集:秋山元秀・小野有五・熊谷圭知・中村泰三・中山修一
2巻:A4変型判/1208頁/ISBN 978-4-254-16892-1
編集:秋山元秀・小野有五・熊谷圭知・中村泰三・中山修一
各定価 本体 43,000円+税
編者より一言
ポートモレスビー歴史的事実の記録と記憶(熊谷圭知)
ポートモレスビーは,パプアニューギニアの首都である.地元での呼称は,ポートモースビーあるいはモスビーだが,表記は日本での通称にしたがっている.日本人にこの地名が知られるようになったのは,第二次世界大戦中の日本軍のポートモレスビー攻略作戦によってであろう.三千メートル級の高山が連なるオーエンスタンリー山脈を越えて,ポートモレスビーを攻略しようという,熱帯の山系の地理を無視した作戦は,大本営参謀本部によって命じられ,壊滅的な犠牲者(ほとんどが病死者や餓死者)を出すことになった.パプアニューギニアには,ラバウル,ウェワク,アイタペなど第二次世界大戦と日本軍の記憶を刻む場所が多い.パプアニューギニアの人びとは一方的に戦争に巻き込まれた被害者だが,幸い親日的な人が多い.しかし戦争の記憶は人びとの間で語られ,共有されている.日本では被害者としての体験は伝えられても,遠い地での戦争の記憶とそれをめぐる想像力は失われていると感じる.本事典では,日本で編まれた地名事典として,こうした歴史的事実を記録し,次世代に伝えることも使命と考えた.
中央アジア大区分地名の掲載も本シリーズの特長です(小野有五)
アジアを中心とする本巻では,「東南アジア」など大区分地名も載せることになり,では中央アジアは?という話になった.政治的にはカザフスタンなど旧ソ連の5共和国が「中央アジア」であるが,かつては,東西トルキスタンをあわせた地域が「中央アジア」であった.ボロディンが1880年に作曲した『中央アジアの草原にて』は,パミールより西の西トルキスタンをイメージしている.しかし,アジアの大区分ということでいえば,当然,天山山脈,タクラマカン砂漠からヒマラヤに至る広大な山岳地域が「中央アジア」であろう.地名は異なる意味をもつ場合があり,先住民族,植民地,領土問題が絡めば,その呼称も多様化,重層化する.本巻では,地名の変遷や,民族・言語による地名のちがいをできるかぎり尊重し,記述した.「チベット高原」もその1つであり,また西部は山脈をなすことから”高原”をはずし,地域名としての「パミール」を採用したのも,現地を知る山岳家たちの主張を尊重したためである.
デリーインドの首都はデリーであってニューデリーではありません(中山修一)
インドの首都は,「デリー(Delhi)」であって「ニューデリー」ではない.この説明には,かなりの苦心が必要だった.というのも今日でも日本の新聞やテレビでは,インドの首都名を「ニューデリー」と表現していることが多く見受けられるからである.そもそもインド人は,独立後,早くから首都名はデリーと表記していたのだが,日本人は,特にメディアや教科書を中心に,長い間「ニューデリー」と表記していた.その原因は,日本で国名・首都名表記の標準とされていた外務省監修の世界の国一覧が,つい最近まで首都名を「ニューデリー」と表記していたからである.
なぜ,首都名が「デリー」かは,本事典で,「デリー」と「ニューデリー」の項を読み比べていただきたい.「デリー」は,法律で定められた首都圏特別行政地域であり,「ニューデリー」は,その中の一つの市行政体ということが分かる.つまり,日本に照らして言えば,首都「デリー」は東京都に,「ニューデリー」は,政府機関が集中する「千代田区」に当たるのである.
張家界(中国・湖南省の世界遺産)なぜ漢字索引が必要なのか?(秋山元秀)
絶景で知られる中国の世界遺産のひとつ,湖南省の張家界.この事典ではチョウカカイという読みかたではなく,チャンチャチエという読み方で収められています.湖南省もコナンではなく,フーナンで入っています.中国の地名は日本人にとって外国地名であってそうでないようなところがあります.漢字の地名は日本語音で読めるからチョウカカイも間違いではありません.しかし張家界を中国語でどう発音すればよいのかを知るために,漢字の読み方索引をつけました.グローバルな世界に通用する地名事典としては,中国地名も外国地名としてきちんと呼ぶことが重要であると考えました.それと同じように,中国にはもともと漢字を使わない民族の言葉によってつけられた地名がたくさんあります.この事典では,これらの地名もできるだけその地名をつくりだし,そこに暮らしているひとたちの言葉で項目をたてるようにしました.多様で複雑な中国の地名のありかたを読み取ってください.
文明発祥の地であると同時に,有史以来政治と権力のせめぎあう激動の地
であり続ける中東・アフリカ地域の“今”を約4,700の地名から読み解く.
【収録地域】アフガニスタン以西のトルコ・キプロスを含む中東諸国,
エジプト・モロッコ・マダガスカル・南アフリカ共和国などのアフリカ諸国.
2012年11月刊行
A4変型判/1188頁/ISBN 978-4-254-16893-8
編集:加藤博・島田周平
定価 本体 32,000円+税
編者より一言
「ガーナ」と「スーダン」地名の遍歴を思う(島田周平)
アフリカの地名(国名)は時代によって「動く」ことがある?ので要注意だ.大学で講義をしていて学生に誤解されやすいのがガーナとスーダンである.奴隷貿易で栄えたかつてのガーナ王国は現在のガーナの地にあった訳ではない.二つの国の領域はまったく重ならないが,現在のガーナが独立する時にこの栄誉ある古王国の名前を戴いたのである.
さらに厄介なのがスーダンである.スーダンとはアラビア語で黒人を意味し彼らが住むサハラ以南の広大な地域を指す地域名であった.現在のマリやブルキナファソなどは西スーダンと呼ばれ,ナイジェリアの北などは中央スーダン,そしてかつてのスーダン国(南スーダンが分離独立する前の国)一帯は東スーダンと呼ばれていた.何とも厄介だ.
しかしこの厄介さの中に地名に隠された宝があると考えたらどうだろう.地名がたどった歴史を遡ることで地名に埋め込まれた文化や政治が見えてくることがある.地名事典をひもとくことの楽しさと意義がここにあると思う.
シナイ山聖書に出てくる地名を同定しようとするヨーロッパ人の意欲(加藤博)
中東の巻の地名選択作業において驚いたのは,ヨーロッパの地名辞典においてユダヤ教,キリスト教ゆかりの地名が実に数多く挙げられていることである.それも,現在では場所を同定できず,推定される場所までもが挙げられている.モーセが十戒を垂れたとされるシナイ山もそうである.中東がユダヤ教,キリスト教,イスラムの三つの一神教の揺籃の地であることを考えれば,なにも不思議なことはない.しかし,聖書に出てくる地名を同定しようとするヨーロッパ人の意欲は,日本人の感覚をはるかに超えている.
悠久の歴史と多様な文化を有するヨーロッパ・ロシア地域の“今”を約16,800の地名から読み解く。
【収録地域】イギリス・イタリア・スウェーデン・オランダ・ギリシャ・スペイン・フランス・ドイツ・
ウクライナ・セルビア・ハンガリー・ブルガリア・ポーランド・アゼルバイジャン・ロシア・ジョージア
(グルジア)・アルメニア・アンドラ・モナコ・ルクセンブルク・ヴァチカン・リヒテンシュタイン・コソヴォなど。
2016年3月刊行
4巻:A4変型判/1232頁/ISBN978-4-254-16894-5
編集:竹内啓一・手塚 章・中村泰三・山本健兒
5巻:A4変型判/1184頁/ISBN978-4-254-16895-2
編集:竹内啓一・手塚 章・中村泰三・山本健兒
6巻:A4変型判/1264頁/ISBN978-4-254-16896-9
編集:竹内啓一・手塚 章・中村泰三・山本健兒
各定価 本体43,000円+税
編者より一言
モーレンベークサンジャン(ベルギー・ブリュッセル)新聞紙面に表れた地名と比較する:事件関連の小地区地名(山本健兒)
2015年11月13日にパリで起きたIS(イスラム国)によるテロ事件の首謀者がベルギーの首都ブリュッセルのモレンベーク地区出身者だったということが,我が国でも報道された.そこは中東などからの移民ムスリムが多数居住する貧しい地区であるという解説がなされていた.朝倉書店の『世界地名大事典』にはこんな小さな地区名は掲載されていないだろうと,「ヨーロッパ・ロシア」の編集者の一人だった私は思いこんでいた.ところが実際に調べてみるとあるではないか.ただし,「モーレンベークサンジャン」という見出しになっている.この地区では,19世紀前半の運河開通によって工場立地が進み,20世紀前半に住宅立地が進んだと解説されている.この大事典によって,その地区はブリュッセル首都圏地域という州に相当する地域の1自治体であることが分かる.首都圏地域の地図も掲載されており,その位置を容易に知ることができる.ちなみに,Molenbeekはオランダ語地名であり,その発音はモーレンベークとなることが,欧州各国語での発音記号を付している『ドゥーデン発音辞典』によって分かる.言うまでもなくサンジャンはSaint-Jeanのフランス語読みであり,こうした地名表記によってブリュッセル首都圏地域が仏蘭両言語併用地域であることも,この事典をひもとくことによって分かる.
フランス(含む海外領)実はフランスは「日が沈まない国」です(手塚 章)
そもそもの最初(項目の選定やランクづけ)から関与したのはフランスであった.3,000近くの項目のうち,本国の地名は留学や調査など滞在経験のある方々に依頼したが,全世界に散らばる海外領土については,数もまとまらず小項目が多いので,すべて執筆を引き受けることにした.フランスは,現時点でいうと,世界最大の「日が沈まない国」なのである.マルティニークやタヒチなど,世界の全域に散在する島々について資料を集めたため,七つの海を何度も経巡った思いがする.
世界を牽引するアメリカ合衆国,自然豊かなカナダを中心に,移民による
急速な多民族化と都市化が進む北アメリカの“今”を約9,600の地名から読み解く.
【収録地域】アメリカ合衆国(ハワイを含む50州),カナダ(10州,3準州),
グリーンランド(デンマーク領).
2013年11月刊行
7巻:A4変型判/988頁/ISBN 978-4-254-16897-6
編集:菅野峰明・久武哲也・正井泰夫
8巻:A4変型判/952頁/ISBN 978-4-254-16898-3
編集:菅野峰明・久武哲也・正井泰夫
定価 本体 32,000円+税
編者より一言
オーガスタ,メーコン,コロンバス日本との関係があるジョージア州の滝線都市(菅野峰明)
アメリカ合衆国ジョージア州の北東部から西部にかけて滝線都市と呼ばれるオーガスタ(Augusta),メーコン(Macon),コロンバス(Columbus)が並んでいる.これらの都市はピードモント台地と海岸平野という2つの地形の接触点に成立した都市である.これら2つの地形の間には流水の下刻作用に対する抵抗力の違いから滝が形成され,この滝が河川交通時代に遡行の終点となっていたので,そこに舟運から陸運への物資の積み替え地点として都市が成立した.その後これらの都市は滝の水力を利用して動力源を得て,商工業都市として発達した.これらの都市は意外に日本との関係がある.北東部のオーガスタは日本人にはマスターズ・ゴルフ・トーナメントの開催地として知られている.また州の中央部にあるメーコンには日本のYKKが進出し,YKK U.S.A.の本社があり,ファスナーやプラスチックバックルなどを製造している.さらに西部にあるコロンバスには日本人もよく知っている保険会社のアフラック(Aflac)の本社があり,日本の生活と関係がある.
先スペイン期からの歴史にヨーロッパ,アフリカの影響で多様化する社会と
環境開発が著しい中南アメリカ地域の“今”を約4,400地名から読み解く.
【収録地域】メキシコ・グアテマラなどの中央アメリカ,キューバなどの
カリブ海地域,ブラジル・アルゼンチンなどの南アメリカ諸国.
2014年11月刊行
A4変型判/1408頁/ISBN 978-4-254-16899-0
編集:山田睦男・中川文雄・松本栄次
定価 本体 48,000円+税
編者より一言
「ヒオ」(リオデジャネイロ)ブラジルの地名表記のスタンダード化に一役(松本栄次)
ヒオはブラジウの前の首都である…」。ブラジル人の発音に近い形で地名を表記すればこのようになる。もちろん、ヒオはリオ、ブラジウはブラジルのことである。ブラジル人は、語頭のRを日本語のハ行に近い音で発音し、母音を伴わないLはウに近い音にするので、こういうことになる。語中のRRもハ行である。ポルトガル本国のポルトガル語は、おおむねローマ字読みで事足りるが、ブラジルのポルトガル語(ブラジル語)には、上に述べたこと以外にもいくつかの「訛り」があって、厄介である。
本事典では、利用者の利便を考え、日本でふつうに使われている日本流の表記を基本とした。これでは現地での会話で通用しないので困ると思われる向きがあるかもしれない。しかし筆者の乏しい経験では、これでも何とか通じるものである。ただし、アクセントの置き方を誤らなければという条件が付く。アクセントはブラジル語の発音において大変重要で、これを誤ると通じないことが多い。このため、本書では、必要と思われる多くの地名について、アクセントのある音節を長音または撥音にしてそれがわかるようにした。(*全文はこちら)
- 世界各地の地名約48,000を厳選し,5つの大地域別・全9巻・五十音順に配列して解説.
- 国・都市等の人文地名,山・川・海等の自然地名,国立公園・生物保護区等の観光地名,遺跡・旧都市等の歴史地名,世界遺産等の多彩な地名を収録.
- グローバル時代のニーズに応え,情報の少ない国や地域の地名も丁寧に採録.
- 自然・地形から政治・経済・文化まで幅広い分野からとらえる充実した解説.
- 人口・面積・経緯度・自然条件等,豊富なデータと情報をわかりやすく表示.
- 旧称・通称等の別名を豊富に採録し,見よ項目や索引から検索可能な構成.
- 国・最大行政区分・都市・自然地形等の地図,特色ある景観・風景の写真を多数盛り込み,各地名のヴィジュアルなイメージを効果的に喚起.
- 地理・歴史・観光教育の参考書,公共・学校図書館の基本資料.研究者・専門家,企業,マスコミ・報道機関,官公庁・自治体の資料に必備の書.
- 好評の旧版『世界地名大事典』(菊判,全8巻,1973-74)から40年,項目数3倍・情報量4倍の日本史上最大の地名事典に生まれ変わって新発売.
グローバル化する世界に生きるわたしたちにとって、日本以外の異なる地域・場所への正しい知識とそれにもとづく地理的想像力をもつことは、世界の人びとに思いを馳せ、他者とつながっていくための第一歩である.そのための手引きとして繰り返し参照されるような書を作りたい.本『世界地名大事典』は、このような意図から企画・編集された.
グローバル化を進める条件の一つに情報技術の進歩がある.いまや、世界各国の細かな地域や場所に関する地名も、インターネットで容易に調べることができる時代になっている.それにもかかわらず、なぜ『世界地名大事典』を新たに刊行しようとするのか.インターネット情報は有用ではあるが、その正確性と執筆の責任の所在については必ずしも定かではない.ある特定の外国地名について調べようとすると、多岐にわたる情報の中で、何がより適切で重要な知識なのか、判断に苦しむことがある.外国の地域や場所に関する的確な知識を得るためには、地域の専門家の力を借りて様々な情報を吟味した上で、執筆責任の所在を明確にすることが不可欠である.
今回の『世界地名大事典』は、上にのべた2つの必要に応えるものとなっている.400名以上の執筆者を擁し、本項目(見よ項目を併せて)5万強という、旧版にくらべ飛躍的に多くの地名を収録した、文字通り日本最大の世界地名事典である.日本最大というのは、ただ収録されている地名数が多い、あるいは説明が詳細であるというだけではない.日本人にとって必要な最新の情報を精選し、同時に個人あるいは機関が長く使うことができる地名事典なのである.