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内容紹介
《本書は『計量経済学ハンドブック』(2007年刊)を底本として刊行したものです》 計量経済学の基礎から応用までを30余のテーマにまとめ,詳しく解説。〔内容〕微分・積分,伊藤積分/行列/統計的推測/確率過程/標準回帰モデル/パラメータ推定/自己相関/不均一分散/正規性の検定/構造変化テスト/同時方程式/頑健推定/包括テスト/季節調整法/産業連関分析/時系列分析/カルマンフィルター/ウェーブレット解析/ベイジアン計量経済学/モンテカルロ法/他。
編集部から
かつて「経済学」は思弁的な道徳科学でした。スミスもミルもマルクスも,歴史学と哲学と初歩的な代数方程式を携えて経済現象に立ち向かいました。長い停滞を経た経済学が統計学の方法論と数理を取り入れ,経済現象の数量的把握・分析が可能になったのは,わずかこの100年間の出来事に過ぎません。これが計量経済学と呼ばれる分野であり,本書はその主要テーマを集大成した和書では比類ない内容のハンドブックです。
本書は大きく四部構成になっています。第I部は線形代数や確率統計の数理的解説を施す基礎編,第II部は変量間の関係を探る回帰分析編,第III部は時間経過による変量の動態を探る時系列分析編,第IV部はベイズ統計や空間統計などの新しい手法を応用したトピックス編です。経済学・統計学の学部上級から大学院生・研究者のバイブルとして活用されるものと期待しています。
少数精鋭主義による執筆が本書の大きな特徴といえます。各テーマの基礎から応用までを第一人者の一貫した筆致で解説するという執筆方針のもと,1章1執筆者を原則とし,全30章から成る本文はわずか26名の精鋭によって分担されています。高名な執筆者の原稿に対して編集委員から多くの注文が出され,改稿依頼ではしばしば冷や汗をかかされました。書籍全体を通じた内容面での多少の重複は是とし,むしろ各テーマごとの体系的な記述を重視しています。読者は関心のある章から読み進めることができるでしょう。
ところで日本の私大経済学部の大多数は今もって「思弁的」であり,数学がまったくチンプンカンプンでも入学することができます。行列式など見たこともない学生が本書を読みこなすに至るまでの千尋のギャップを埋めていく企画の必要性を痛感します。(川口)
目次
Ⅰ. 基礎
1. 微分・積分,確率分布,ブラウン運動,伊藤積分
1.1 微分・積分
1.2 確率論に関する数学的基礎知識
1.3 代表的な確率分布
1.4 ブラウン運動と伊藤積分
2. ベクトルと行列
2.1 ベクトル
2.2 行列
2.3 行列式
2.4 逆行列
2.5 ベクトルの線形独立と行列の階数
2.6 固有値と固有ベクトル
2.7 ベクトルによる微分,2次形式
3. 統計的推測
3.1 推定,仮説検定,3つの大標本検定
3.2 極限理論
4. 確率過程
4.1 定義
4.2 基本的な確率過程
4.3 代表的な確率過程
Ⅱ. 回帰分析とその応用
5. 標準回帰分析
5.1 単回帰分析
5.2 重回帰分析
5.3 行列による回帰分析
6. 回帰モデルにおけるパラメータ推定
6.1 回帰モデルの推定(1):最小2乗法,一般化最小2乗法,最尤法,擬似最尤法,非線形最小2乗法,絶対偏差法,経験尤度法
6.2 回帰モデルの推定(2):一般化積率法,操作変数法,非線形推定
7. 自己相関
7.1 自己相関とは
7.2 自己相関の発生の理由
7.3 自己相関の結果
7.4 自己相関の検定
7.5 一般化最小2乗法
7.6 最尤法による推定
7.7 AR(1)以外の自己相関への対処法
7.8 貨幣需要関数の推定
8. 不均一分散
8.1 不均一分散の影響
8.2 不均一分散の検定
8.3 不均一分散のもとでの推定
8.4 応用例:ヘドニック住宅価格モデルの推定
9. 正規性の検定
9.1 誤差項の非正規性
9.2 正規確率プロット
9.3 歪度と尖度
9.4 歪度と尖度を用いる正規性の検定
9.5 ボウマン-シェントン(ジャルク-ベラ)検定
9.6 ギアリー検定
9.7 ダゴスティーノのD
9.8 歪度=0あるいは尖度=3の検定
9.9 アンダーソン-ダーリン検定
9.10 範囲テスト
9.11 最小2乗残差を用いる正規性検定
9.12 一変数の正規性検定における検定統計量の検定力
9.13 最小2乗残差を用いる正規性検定統計量の検定力
10. 構造変化テスト
10.1 構造変化
10.2 線形回帰モデルと回帰係数に関する線形制約
10.3 構造変化の検定
10.4 数値例
10.5 逐次Chow検定
10.6 ダミー変数による構造変化の検定
10.7 漸次的構造変化モデル
10.8 分散が等しくないときの構造変化の検定
11. 同時方程式体系
11.1 同時方程式モデルと同時性に関する問題
11.2 同時方程式モデルと識別問題
11.3 同時方程式モデルの推定問題
11.4 動学的同時方程式モデル
11.5 同時方程式モデルへの批判
11.6 合理的期待形成モデル
11.7 同時方程式モデルへの応用(1):伝統的マクロ計量モデル
11.8 同時方程式モデルへの応用(2):Forward Looking型マクロ計量モデル
12. 頑健推定
12.1 通常の最小2乗法のまとめ
12.2 ハット行列H
12.3 (内的)スチューデント化残差
12.4 i番目の観測値を削除したときのパラメータ推定値の変化
12.5 (外的)スチューデント化残差
12.6 被説明変数の推定値への影響
12.7 クックのD
12.8 L-Rプロット
12.9 頑健推定とは
12.10 M推定量
12.11 回帰係数のM推定量
12.12 M推定量の不偏性と漸近的特性
12.13 W関数
12.14 くり返し再加重最小2乗法とM推定量
12.15 IRLSを用いるときの注意
12.16 M推定の例
12.17 有界影響推定
12.18 崩壊点
12.19 LMS,LADおよびLTS
12.20 S推定
12.21 2段階S推定
12.22 おわりに
13. 包括テスト
13.1 包括テスト
13.2 R傅欝によるモデル選択
13.3 コックステスト
13.4 コックス-ペサランテスト
13.5 修正コックス-ペサランテスト
13.6 Jテスト
13.7 JA,PE,BMテスト
13.8 平均包括テスト
13.9 予測包括テスト
13.10 おわりに
14. 季節調整法
14.1 経済時系列の季節性
14.2 季節調整法X-11
14.3 X-12-ARIMA法
14.4 DecompとX-12-ARIMA
14.5 季節調整と計量経済分析
15. 産業連関分析
15.1 産業連関分析とは
15.2 産業連関表の基本概念と恒等式
15.3 各種の産業連関表と国民経済計算との対応
15.4 波及計算の基礎
15.5 2部門経済モデルから多部門経済モデルへ
15.6 日本の産業連関表の特徴
15.7 産業連関分析の展開
15.8 そのほかの話題
Ⅲ. 時系列分析とその応用
16. 時系列分析(1)―ARIMAモデル―
16.1 確率過程とホワイト・ノイズ
16.2 定常確率過程
16.3 平均,自己相関係数,偏自己相関係数,スペクトル密度
16.4 一変量時系列モデル
16.5 和分次数の決定:単位根検定
16.6 パラメータ推定
16.7 モデル選択
16.8 診断
16.9 予測
17. 時系列分析(2)―VARとECM―
17.1 VARモデルの構築
17.2 時系列間の因果関係
17.3 インパルス応答関数と分散分解
17.4 構造VAR
17.5 ECM
18. 時系列分析(3)―単位根,共和分―
18.1 経済時系列の非定常性
18.2 和分過程と共和分過程
18.3 単位根検定(1):構造変化がない場合
18.4 単位根検定(2):構造変化がある場合
18.5 共和分分析
18.6 単位根・共和分を用いた実証分析の例
19. 時系列分析(4)―ARCH―
19.1 代表的なARCH型モデル
19.2 計量手法
19.3 ARCH型モデルの発展
19.4 モデルの比較
19.5 今後の課題:Realized VolatilityとARCH型モデル
20. 状態空間モデル
20.1 はじめに
20.2 状態空間モデルの定義
20.3 状態変数の推定問題
20.4 カルマンフィルタ・モデルの導出と解釈
20.5 最尤法による未知パラメータの推定
20.6 おわりに:最近の展開
21. スペクトル解析,ウェーブレット解析
21.1 スペクトル解析
21.2 ウェーブレット解析
Ⅳ. 計量経済学のトピックス
22. ベイジアン計量経済学
22.1 ベイジアン計量経済学
22.2 マルコフ連鎖モンテカルロ法
23. モンテカルロ法,ブートストラップ法,カリブレーション法
23.1 モンテカルロ法
23.2 ブートストラップ法
23.3 カリブレーション法
24. ファイナンシャル・エコノメトリックス
24.1 はじめに:エコノメトリックスとファイナンシャル・エコノメトリックス 24.2 高頻度データの解析とマーケット・マイクロストラクチュア
24.3 高頻度データとボラティリティ
24.4 今後の課題
25. 質的データ,制限従属変数,計数データ
25.1 質的データのプロビット,ロジットモデルによる分析
25.2 制限従属変数のトービット・モデルによる分析
25.3 ポアソン回帰モデルによる計数データの分析
26. 継続時間の計量分析
26.1 基本事項
26.2 回帰モデル
26.3 離散データ
26.4 モデルの推定
26.5 より進んだ分析
27. パネルデータ分析
27.1 パネルデータの必要性
27.2 パネルデータモデルの推定
27.3 動的パネルデータモデル
27.4 二値応答パネルデータモデル
27.5 パネル計数データモデル
28. ノンパラメトリック法,セミパラメトリック法
28.1 パラメトリック,セミパラメトリック,ノンパラメトリック回帰モデル
28.2 ノンパラメトリック回帰モデルの推定
28.3 セミパラメトリック回帰モデルの推定
28.4 まとめ
29. 空間計量経済学
29.1 時空間データの種類
29.2 定常確率場とそのモデル
29.3 そのほかのさまざまなモデル
29.4 実際データへの応用
29.5 近年の発展および今後の課題
30. 計量経済学の歴史
30.1 計量経済学の濫觴
30.2 計量経済学の空白の100年
30.3 計量経済学のシュトゥルム・ウント・ドラングの時代
30.4 ヘンリー・ムーア
30.5 識別問題
30.6 シュルツ,ダグラス
30.7 コールズ委員会
30.8 計量経済学会の創立
30.9 計量経済学方法論への批判:ポパーリアン
30.10 ルーカス批判
30.11 実証分析からの批判
30.12 構造方程式接近法への批判
30.13 LSE学派
30.14 時系列革命
30.15 おわりに
和文索引
欧文索引
執筆者紹介
【編集者】
蓑谷千凰彦,縄田和満,和合肇
【執筆者(50音順)】
大谷一博,大津泰介,大森裕浩,金澤雄一郎,川崎聡,国友直人,古澄英男,隅田和人,田中勝人,谷崎久志,佃良彦,照井伸彦,浪花貞夫,縄田和満,羽森茂之,早見均,原尚幸,伴金美,平田英明,本田敏雄,蓑谷千凰彦,矢島美寛,姚峰,吉田あつし,和合肇,渡部敏明