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統計学入門II ―尤度によるデータ生成過程の表現―
豊田 秀樹(著)
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※ 書籍中の分析を実行するスクリプトとcmdstanrの解説 - 正誤表20221222.pdf
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※ Stan2.35.0対応の演習用ファイルです(2024/10/15)
内容紹介
第I巻で学んだ生成量に基づく柔軟なデータ解析手法をさまざまな統計モデルに適用する実践編。計算はR言語のパッケージcmdstanrとrstanの両方で実装。〔内容〕単回帰モデル/重回帰モデル/ロジスティック回帰/ポアソンモデル/共分散分析・傾向スコア/階層線形モデル/項目反応理論/他
編集部から
●入稿に間に合わなかった,第II巻の「あとがき」 …… 豊田秀樹
本書は I, II 巻構成の後半の1冊です.第I巻 (豊田秀樹 (2022)『統計学入門I -生成量による実感に即したデータ分析-』朝倉書店) は早稲田大学文学部心理学コース2年生前期必修科目,第II巻は後期必修科目の統計学の入門書として執筆しました.自己完結的に執筆しましたので,統計学の入門書として,学外の方にも読んでいただきたいと願っています.
2017年度から2020年度まで,筆者は放送大学で「心理統計法 '17」の講義を担当しました.第II巻は「心理統計法 '17」の単位を取った学生さんへの続編としての役割を半分意図しています.放送大学での受講を思い出し,さらにアドバンストな内容を学習していただけたなら,筆者望外の幸せです.
ただし第I巻は,放送大学の教科書 (豊田秀樹 (2017) 『心理統計法-有意性検定からの脱却』 (放送大学教材) 放送大学教育振興会) の単なる再発行や,ちょっとした焼き直しではありません.放送大学では,初等統計教育から有意性検定を割愛し
1. 統計データ分析は,学問発展の十分条件を最初から目指す.
2. 研究の価値判断には,ドメイン知識で実感できる指標を用いる.
という2つの教育目標を掲げていました.当時から現在に至るまで,この変更目標の正しさを筆者は確信しています.しかし学問発展のための十分条件は,立場や目的によって様々に異なります.基準点 c を分析者が1点だけに定めることには困難が伴います.これは筆者自身がPHCの使用に際して常に感じていた欠点であり,当時は「何かが足りない」という迷いの中で講義をしていました.
副読本 (豊田秀樹 (2020) 『瀕死の統計学を救え! -有意性検定から「仮説が正しい確率」へ-』 朝倉書店) を執筆しているときのことです.phc 曲線と phc テーブルの使用で,この欠点を完全に克服できることに,筆者は気がつきました.分析者のドメイン知識を総動員し,学問発展の十分条件を示す基準点 c を定め,phc の高さを考察することの重要性に変わりはありません.しかし同時にその他の立場や目的のために,幅を持たせた基準点に対する phc を予め論文中に提示しておくことも同じくらい大切です.読者はそれぞれの立場で論文の価値を判断することが可能になるからです.分析者は基準点を1点だけに定める重責から解放されます.この着想により,自身の教程に関する迷いがなくなり,晴々とした気持ちになりました.第I巻は,phc 曲線・phc テーブルの観点から「心理統計法 '17」の教程を全面的に書き直した教科書です.
現状において,有意性検定を割愛し,初等統計の教程の大幅な変更を提案することは,即座に統計学の主流派から外れることを意味しています.組織における当然の力学です.たとえば原子力発電からの完全脱却論を主張した元総理大臣は即座に主流派から外れました.有能な与党の政治家や官僚は,現状を大筋で認めねばなりません.現実政策とは,日々山積する懸案を卓越した調整能力で解決し続けることです.原発からの完全脱却などという大幅な変更は,それが正しいか否かとは関係なく,短期的には与党の政治家や官僚の選択肢にはなり得ません.だから筆者は,自身の教え子たちには,頼まれたら有意性検定の講義して欲しい,主流派に留まっていてほしいと願っています.原発からの完全脱却論を主張している元総理大臣もご子息に同じ主張をしてほしいとは (きっと) 思っていないでしょう.それといっしょです.
ましてや筆者ごときが教程の変更を主張しても,短期的には,大勢は動きません.よくて「傾聴の価値は認めるけれど,あなたしか言ってない」と言われるのが関の山です.それでもなお,教程の変更を主張し続けることは大切です.大幅な変更を唱える非主流の改革者が一定数存在するからこそ,長期的にみれば大きな変化が社会に生じるのです.授業中に「少し前までは,電車や飛行機の中に灰皿があったんだよ」と言うと,今の大学生は信じられないと笑います.変わらないように見えて,変わるときには,時代は急速に変わります.深刻な被害が出ているのですから,再現性問題がこのまま放置されることはあり得ません.「論文の採否を,主に p 値が5%を切るか否かで判定していた時代があったんだよ」という笑い話が,授業中に語られる日が,きっと来ます.
本書内に登場する統計モデルは stan というソフトウェアで分析されています.これまで R を介して stan を利用する場合には,rstan というパッケージを使用するのが標準でした.しかし残念なことに,近年 rstan は重く,遅く,意味なく暴走するようになってしまいました.この現状を鑑み,本書では cmdstanr というパッケージの使用をメインに据えました.rstan に比べて圧倒的に速い cmdstanr による MCMC を是非体験して下さい.
「統計学入門」という書名の書籍を出版することは,20代の頃からの夢でした.国内外に類書が全くなく,しかも自身で満足できる内容の「統計学入門」は,自分にはとても書けないだろうと思っていたからです.夢が叶い,感無量です.
2022年8月31日
目次
1. 単回帰モデル
1.1 Galton (1886) の親子の身長データ
1.2 回帰直線
1.3 生成量と予測分布
1.4 分析結果
1.5 確認問題
1.6 実習課題
2. 重回帰モデル
2.1 直腸がんデータの分析
2.2 重回帰モデル
2.3 確認問題
2.4 実習課題
3. 偏回帰係数の解釈
3.1 予測変数が多い場合の偏回帰係数の解釈の困難性
3.2 直接効果・間接効果・総合効果
3.3 予測変数が2つの場合のパタン分類
3.4 正誤問題
3.5 確認問題
3.6 実習課題
4. ロジスティック回帰/メタ分析
4.1 ロジスティック回帰(ベルヌイ分布)
4.2 ロジスティック回帰(2項分布)
4.3 メタ分析
4.4 正誤問題
4.5 確認問題
4.6 実習課題
5. ポアソンモデル/対数線形モデル
5.1 ポアソン分布
5.2 ポアソン分布の推定
5.3 2つのポアソン分布の比較
5.4 ポアソン回帰
5.5 対数線形モデル
5.6 正誤問題
5.7 確認問題
5.8 実習課題
6. 数種の分布による独立した1要因の推測
6.1 対数正規分布
6.2 対数正規分布による1要因実験
6.3 ポアソン分布による1要因実験
6.4 2項分布による1要因実験
6.5 正規分布による1要因実験(変量モデル)
6.6 正誤問題
6.7 確認問題
6.8 実習課題
7. 共分散分析/傾向スコア
7.1 介入研究と観察研究
7.2 傾きが共通した共分散分析
7.3 傾きが異なる共分散分析
7.4 傾向スコア
7.5 傾向スコアによる調整
7.6 正誤問題
7.7 確認問題
7.8 実習課題
8. さらに進んだ実験計画
8.1 対応のある1要因の推測
8.2 ネストした1要因の推測
8.3 対応ある2要因の推測
8.4 混合した2要因の推測
8.5 正誤問題
8.6 確認問題
8.7 実習課題
9. 階層線形モデル
9.1 切片と回帰係数に分布を仮定したモデル
9.2 切片に分布を仮定したモデル
9.3 切片と傾きに相関のあるモデル
9.4 レベル2の変数があるモデル
9.5 傾きが共通でレベル2の質的変数があるモデル
9.6 正誤問題
9.7 実習課題
10. 間接質問法
10.1 混合分布
10.2 ランダム回答法
10.3 Aggregated Response 法
10.4 アイテムカウント法
10.5 実習課題
11. 項目反応理論
11.1 2値項目の項目特性曲線
11.2 3値項目の段階反応モデル
11.3 5値項目の段階反応モデル
11.4 2値項目の3母数項目特性曲線
11.5 確認問題
11.6 実習課題
12. 予測変数を直交化した重回帰分析
12.1 基準変数の分散の分解
12.2 ダミー変数による重回帰モデル
12.3 直交表
12.4 結果と解釈ための指標
12.5 確認問題
12.6 実習課題
13. 質的研究における飽和率・寡占度
13.1 質的知見収集の特徴
13.2 寡占度・飽和率・遭遇率
13.3 非復元抽出によるランクの同時分布
13.4 インタビュー調査の寡占度・飽和率・遭遇率
13.5 正誤問題
13.6 確認問題
13.7 実習課題
索 引