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アジアの歴史地理 3 林野・草原・水域
内容紹介
〔内容〕たたら生産と林野の改変/育成林業地帯の形成/雲南の山村と生業/近世・近代日本の高地牧場と和牛飼育/モンゴル高原の遊牧とその近代化/漁法の変化と漁場/あま漁法とあま漁村/塩田の開発と衰退/沿岸観光地域の形成/他。
編集部から
本シリーズは,「刊行のことば」から引用すると「地図のなかに過去の事実を読み解き,従来の定説を覆し研究を進展させることを徹頭徹尾追求し,大きな成果と歴史地理学の存在意義を示した足利健亮先生が,創設間もない京都大学大学院人間・環境学研究科の科長として学際的・統合的研究の意義を積極的に示そうとした」ものであり,壮大かつ意欲的な企画です。実際,足利先生は,古代日本の官道は直線的な計画道路であったことを論証されるなど,数々の研究成果を示されました。しかし,1999年8月6日,急逝,享年62歳でした。
そのため原稿締切りが過ぎた直後の本シリーズは大きなダメージを受け,一時はまったく暗礁に乗り上げてしまいました。ですが,京都大学での足利先生の後輩にあたられる方々を中心とした12名の編集委員の先生方による熱意と努力で,全巻構成を抜本的に再編,当初企画よりコンパクトなものとし,近年の成果までとりこんだ全3巻で,ここにようやく刊行できることとなりました。
全3巻の執筆者総数約70名,現在第一線で活躍中の方々ですが,それぞれが専門とされる分野から選んだ様々なテーマにより,具体的に,しかも海域まで含むアジア全体を対象として,地域,空間的視座から歴史にまつわる研究成果を述べていただいています。
いま,歴史書はあふれていますが,きちんとした専門書は少なく,特にこの分野の新しい本はまったくないといっても過言ではないので,地味ですが歴史地理学の有意義な書物として存在感のある必備書となると思っています。(笠間)
目次
I編 林野利用の展開
1章 たたら製鉄と林野の改変
1 たたら製鉄における林野利用
2 鉄穴流しによる林野の地形改変
3 林野における鉄穴流し跡地の耕地化
4 鉄穴流しをめぐる林野利用と地域像
2章 焼畑と出作り ─白山麓の林野利用システムと人々の生活─
1 焼畑とは
2 白山麓における焼畑の概要
3 出作り生活と林野利用
4 白山麓の林野利用
3章 獣と人間の交渉史 ─カモシカと人間との関係の変化─
1 カモシカと人間との関係史
2 カモシカによる林業被害
3 カモシカ生息コアにおける林業被害
4 カモシカ生息コア周辺における林業被害
5 林業先進地における林業被害
4章 電源開発・水資源開発と山村の対応
1 日本における電源開発・水資源開発の変遷
2 戦前における電気事業の発達と農山村地域の対応
3 電力再編成とダム建設の本格化
4 電源開発と山村の変貌
5 水資源開発の展開と水源地の現状
5章 森林再生物語 ─禿げ山時代から森林時代へ─
1 森林が荒廃化した時代
2 育成林への模索時代
3 戦後の造林ブームと山村の変容
4 今日の林野利用をめぐる問題
6章 人口減少と山間集落の変容 ─四国山地の事例─
1 山村の類型
2 人口の減少と高齢化の進展
3 山村住民の離村先
4 過疎山村の耕地の荒廃と林地化
5 林野利用の変化
6 林野利用再生への新しい動向
7章 温泉観光地域の形成
1 温泉地の発展
2 近世期の湯治場
3 明治期~昭和期の温泉地
4 第2次世界大戦後の温泉観光地域
8章 中国・雲南省西双版納の山村と生業
1 立体気候と立体農業
2 西双版納の気候と農耕文化の特色
3 基諾族にみる伝統的農業としての焼畑の変容と農業近代化の方向
4 商品作物栽培の推進
5 山地少数民族の“伐らずの森”
6 文化としての焼畑の衰退と生業の近代化
II編 草地・草原
1章 中国脊梁山地の草地と和牛放牧
1 全国府県別にみる草地,牧野および放牧面積
2 中国脊梁山地の大牧場と小牧場
3 近年の変化
2章 近代・現代の牧畜の発展と公共草地
1 牧畜の変遷
2 畑酪農と公共草地
3章 モンゴル高原の遊牧とその近代化
1 モンゴル高原における環境の特徴
2 モンゴル高原における牧畜システムの特徴
3 社会主義下の近代化
4 ポスト社会主義の現在を理解するために
4章 ポスト社会主義時代におけるシベリアのトナカイ遊牧
1 極北地域のトナカイ遊牧
2 チュコトカをめぐる近年の政治経済の動向
3 チュコトカ自治管区におけるトナカイ遊牧の変化
4 トナカイ遊牧の維持する形
5 トナカイ遊牧の衰退する形
6 シベリアのトナカイ遊牧の地域性
5章 インド農村における草地と家畜飼育
1 インドの土地利用と草地
2 調査対象村落における草地と家畜経済
3 調査対象村落における共有放牧地の近年の変化について
III編 水域利用の展開
1章 伝統石干見漁の過去と現在
1 石干見とは
2 石干見の分布
3 日本における石干見の名称
4 島原半島沿岸のスクイ漁業
5 スクイの現在
6 石干見への新たな意味の付与
2章 アラフラ海と真珠貝 ─世界システムの視点から─
1 アラフラ海の片隅で
2 「アラフラ海」以前
3 シロチョウガイと世界システム
4 多民族社会と地図
5 日本企業とシロチョウガイ
3章 アマ漁業とアマ漁村
1 アマ漁業地域
2 アマの漁撈活動
3 アマ漁村の特色
4 アマ漁業存立の条件と課題
4章 塩田の開発と整備廃止
1 塩田の開発
2 専売制の施行と塩業整備
3 開発の古い山口県三田尻塩田
4 香川県西讃地域
5 香川県中讃地域
5章 日本における海水浴の受容と海岸観光地の変化
1 海岸観光の変化を解く鍵としての海水浴
2 日本における海水浴の導入と当時の海水浴
3 日本における草創期の海水浴場とその景観
4 明治後期以降に開設された海水浴場とその景観
5 海水浴の受容に果たした海水温浴の役割
6 海水浴の受容と海岸観光の変化
6章 山原船 ─古き沖縄の海上交通─
1 馬艦型の船の登場
2 山原船の起源
3 所有形態
4 輸送物資の内容
5 山原船の終焉
索 引
執筆者紹介
【編集者】
小長谷有紀,中里亜夫,藤田佳久
【執筆者(執筆順)】
貞方 昇,岩田憲二,中山正典,西野寿章,藤田佳久,篠原重則,山村順次,白坂 蕃,中里亜夫,早川康夫,小長谷有紀,池谷和信,田和正孝,松本博之,大喜多甫文,重見之雄,小口千明,島袋伸三