マダニの科学 ―知っておきたい感染症媒介者の生物学―

白藤 梨可八田 岳士中尾 亮島野 智之(編著)

白藤 梨可八田 岳士中尾 亮島野 智之(編著)

定価 4,620 円(本体 4,200 円+税)

A5判/228ページ
刊行日:2024年11月01日
ISBN:978-4-254-17194-5 C3045

ネット書店で購入する amazon e-hon 紀伊國屋書店 honto Honya Club Rakutenブックス くまざわ書店

書店の店頭在庫を確認する 紀伊國屋書店

コンテンツダウンロード

内容紹介

マダニの生物学・生理学の側面をしっかり理解したうえで,マダニおよびマダニ媒介感染症対策につなげることができるコンパクトな専門書.初学者にも最適.〔内容〕マダニとは/Q&A/分類/形態と生理・生化学/生活史/マダニによる被害/マダニ・媒介性感染症の対策法/マダニ研究の現状/コラム/分類表

編集部から

★デジタル付録(文献リスト)はこちらから★
文献リスト

はじめに

 皆さんは「マダニ」についてどのようなイメージをもっているでしょうか? 「血を吸って病気を運ぶ気持ち悪い嫌な虫」のマダニがどのような生物か,その生態をどのくらいご存じでしょうか?
 マダニは吸血性の節足動物です.成虫の体長は吸血前では約2mm以上であり,ダニ類の中では大型です.マダニの栄養源は宿主(脊椎動物)の血液のみで,吸血の機会を逃してしまうと発育・繁殖ができません.マダニが栄養分を獲得できるチャンスは,“hard ticks”に分類されるマダニでは,幼虫期に1回,若虫期に1回,成虫期に1回…… つまり,一生で3 回だけなのです.マダニの吸血期間は発育期や種によって異なりますが,数日~数週間かけて大量の血液を宿主から摂取し,自身を成長させながら必要な栄養分を獲得します.満腹になると自ら離れ,地上に落下します.吸血せずに,飢餓状態で数ヶ月から数年以上生存できるという側面もあります.
 マダニの吸血行動そのものが人・動物に対する直接的な加害になることはもちろん,とりわけ問題となるのは,吸血時にさまざまな病原体を媒介するという間接的な加害です.2013 年にマダニ媒介性感染症が西日本で報告され,人々のマダニに対するリスク認知のレベルが一気に高まりました.マダニ(tick)は身近な「衛生害虫」として社会的に定着しましたが,実際は,昆虫や小型のダニ(mite)とは何が違うのか,どのように発育・繁殖するのか,そしてどのような仕組みで病原体を媒介するのかなど,マダニの「中身」で起きているさまざまな事象については,あまり知られていません.また,牛などの産業動物におけるマダニ媒介性感染症対策の重要性については,獣医畜産関係者以外にはほとんど知られていない状況です.
 マダニによる刺咬とマダニ媒介性感染症の予防のためには,マダニの生物特性を理解することが重要です.これまでは,医学・獣医学の寄生虫学・衛生動物学関連科目の教科書において「外部寄生虫」としてマダニが取り上げられており,病原体媒介の観点から,その重要性に関する説明があるものの,マダニの「生物学・生理学」に関する記述はごく限られたものでした.また,そのほとんどが10年以上前に出版されたものだったのです.
 この間,新たなマダニ媒介性感染症が発見され,また,吸血生理や卵形成,病原体媒介の仕組みといったマダニの生物学・生理学が分子レベルで説明できるようになってきました.病原体-マダニ-宿主,この三者の関係についても研究が活発化し,「ワンヘルス(One Health)」という概念に基づくマダニ対策の重要性も説かれています.しかし,初学者でも容易に読めるマダニの生物学・生理学を盛り込んだマダニ学専門書はきわめて少なく,最新の知見を盛り込んだ手頃な教
科書が求められています.
 このような背景から,マダニの生物学的特徴を正しく,わかりやすく解説する日本語のマダニ学専門書が必要と考え,本書を企画しました.「マダニとは」という基本的解説から入り,マダニ生物学・生理学の基礎を説明し,国内外のマダニによる被害とその対策法の実際に加え,マダニ研究に関する最新の知見を盛り込みました.マダニを専門とする研究者15 名の熱い思いが詰まっており,紙幅の都合でやむをえず割愛した部分もありますが,マダニの「外面」も「中身」もまるごと知り尽くす「マダニ学」の教科書として,この度の刊行に至りました.
 まずは,マダニの危険にさらされる一般読者の皆さんはもちろんのこと,医療・獣医療・農林畜産業などに関わる方々,そして,医学・獣医学・農学教育における寄生虫学とその関連学問の初学者,専攻・専門とする方々,あるいは,野外活動などが行われる小中学校の教育現場,自然活動団体等の皆さんにもお手に取っていただき,本書を活用していただけましたら幸いです.
 本書が,マダニ学,特にマダニ生物学・生理学研究のますますの発展と新たな学問体系の構築の基礎,さらには分野横断的研究のシーズとなることを強く期待するとともに,本書との出会いによりマダニ学に興味をもち,将来のマダニ生物学・生理学研究者が一人でも増えてくれることを心から願います.
 また,血を吸って病気を運ぶマダニの不思議に満ちた生き様を,ユーモラスで素敵なイラストに表現して下さった西澤真樹子様に,心より感謝申し上げます.

2024年10月
白藤梨可・八田岳士・中尾 亮・島野智之

目次

第1章 Q&A

第2章 分 類
 2.1 概 要
 2.2 マダニ目の分類
 2.3 日本産マダニ種の特徴
 ●コラム1 ダニは単系統か,多系統か―マダニがもつ恐竜の遺伝子
 
第3章 形態と生理・生化学
 3.1 形 態
 3.2 感覚器
 3.3 フェロモン
 3.4 神経系
 3.5 呼吸器系
 3.6 吸血生理
 3.7 血液消化
 ●コラム2 酸化ストレスに関する話題
 3.8 排泄・体内水分調節
 3.9 循環系
 3.10 脂肪体
 3.11 生殖器
 3.12 卵形成・産卵・胚発生
 3.13 共生菌
 ●コラム3 デザインとファッションで伝える感染症対策
 
第4章 生活史
 4.1 生活史
 4.2 宿主探索と吸血行動
 ●コラム4 マダニ採集法
 4.3 ホルモンによる脱皮・卵形成の制御
 4.4 繁 殖
 4.5 休眠・越冬
 4.6 季節消長
 4.7 寿 命
 ●コラム5 地球温暖化とマダニ
 
第5章 マダニによる被害
 5.1 直接的な被害
 5.2 間接的な被害
 5.3 マダニ媒介性病原体
 5.4 微生物に対するマダニの免疫応答
 ●コラム6 エゾウイルスの発見と感染症の証明
 
第6章 マダニ刺症とマダニ媒介性感染症の対策
 6.1 医学におけるマダニ刺症患者の診療
 6.2 獣医学におけるマダニ対策法とマダニ媒介性感染症への対応
 ●コラム7 マダニの撲滅は可能?―沖縄県八重山群島におけるオウシマダニ撲滅事業
 6.3 海外でのマダニ対策と殺ダニ剤抵抗性の問題
 ●コラム8 鳥がマダニを奪っていく!?
 
第7章 マダニ研究の現状
 7.1 ゲノム・ミトゲノム
 7.2 採集法・飼育法・実験法
 ●コラム9 マダニ研究に用いられる最新の技術
 7.3 国内外におけるマダニ研究動向
 ●コラム10 マダニバイオバンク
 
付録 マダニ分類表

執筆者紹介

◆編集委員
白藤梨可 帯広畜産大学
八田岳士 北里大学
中尾 亮 北海道大学
島野智之 法政大学

◆執筆者(五十音順)
麻田正仁 帯広畜産大学
猪熊 壽 東京大学
小方昌平 北海道大学
尾針由真 北海道大学
草木迫浩大 北里大学
佐藤(大久保) 梢 国立感染症研究所
島田瑞穂 自治医科大学
土井寛大 森林総合研究所
夏秋 優 兵庫医科大学
松野啓太 北海道大学
山内健生 帯広畜産大学

関連情報

ジャンル一覧

ジャンル一覧

  • Facebook
  • Twitter
  • 「愛読者の声」 ご投稿はこちら 「愛読者の声」 ご投稿はこちら
  • EBSCO eBooks
  • eBook Library