BOOK SEARCH
内容紹介
「多様性」「包括性」を重視した看護のための教科書.改正カリキュラムの「地域・在宅看護論」に対応.2色刷.〔内容〕人々の暮らし・生活と健康支援(健康生活支援の基盤,社会環境と健康,健康行動を引き出す力)/生老病死に寄り添う看護(ライフコースアプローチ,多様な健康上の課題)/演習(アセスメント,ワークショップ)
編集部から
まえがき
新しい時代の地域看護を拓く
「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」日本国憲法第25 条に生存権が掲げられてから約80年,私たちはその理想を追い求め,挑戦を重ねてきました。それでもなお,新たな課題に向き合い続けています。
私たちが生きる社会は,目まぐるしい変化のなかにあります。多様化する価値観や生活様式,高齢化や国際化の進行,刻々と変わる地域社会の課題,そのような社会においては「多様性を理解し,包括性のあり方を考える」ことは看護師にとって欠かせない資質となりました。
そのような背景のなか,2022(令和4)年に正式に導入された看護学教育における新カリキュラムでは,地域包括ケアへの適応能力,多様性や包括性に対応する力が重視されました。これまでの「在宅看護論」という科目区分が,「地域・在宅看護論」に変更され,「地域に暮らすすべての人々」を対象とした,より包括的で多面的な学びが強調されました。
本書は,「地域・在宅看護論」の「地域」の部分を担うものです。地域看護は,一人ひとりの多様な生活に寄り添いながら,彼らがその地で豊かな人生を送るための支援を行うものです。この理念を実現するには,看護師一人ひとりがもつ「科学的な視点」と「人間らしい温かさ」を融合させることが不可欠です。本書は,その力を養うための知識と実践方法を多様性の理解と包括性のあり方を踏まえながら体系的に学べる構成となっています。
カリキュラムが改正された際,保健師教育課程における公衆衛生看護学と看護師教育課程における地域看護学の差別化,保健師の専門性,看護師の専門性が議論になりました。公衆衛生看護学は「地域を看護する」学問であり,その対象は「地域」という社会そのものです。地域全体の健康と福祉を支え,地域がもつ力を最大化するためのはたらきかけを行うことを目的としています。一方,地域看護学は「地域で看護する」実践的学問として,地域の基盤の上に立ち,そこに暮らす多様な人々一人ひとりに寄り添い,その生活や健康を支えることを目指します。公衆衛生看護と地域看護はそれぞれ異なる視点やアプローチをもちながらも,ともに地域社会の健康を支えるうえで重要な役割を担っています。お互いを補完し合いながら,地域の未来を支える存在といえます。本書は公衆衛生看護学と地域看護学の役割や視点の違いを整理し,保健師を選択しない看護師のみの学生や専門職の方に習得していただきたい内容を網羅しています。
本書は大学,短期大学,専門学校を問わず,多様な教育機関で活用できる汎用性を追求しました。特に,公衆衛生看護教育が行われていない専門学校や短期大学においても,地域看護を学ぶための基盤として役立つ内容になっています。地域看護が看護職者にとってどれほど普遍的で必要不可欠なものであるかに気づいていただけると考えます。
巻頭にあたり本書が学生や看護職者にとって新しい視点を拓く契機となることを願っています。地域に根ざし,住民とともに歩む看護の力は,医療の枠を超えて人々の暮らしを変え,社会全体の健康を支える礎となります。本書がその一助となり,未来の看護職者たちが持続可能な地域社会をともに築いていけることを心から期待しております。
どうぞ,この一冊を通じて看護の本質と未来への可能性を感じとり,学びを日々の実践に活かしてください。そして,その学びを通じて,多くの人々の生活に新たな光をもたらす看護職者としてご活躍いただけることを願っています。
2025年1月 渡邉多恵子
目次
第I部 人々の暮らしと生活と健康支援
第1章 人々の暮らしと生活
1-1 人々の暮らしとその多様性 [渡邉多恵子]
1-2 食生活の変化 [雀部沙絵]
1-3 家族,コミュニティ,きずな,つながり,宗教 [渡邉多恵子]
第2章 健康生活支援の基盤
2-1 日本国憲法と生存権の保障 [望月宗一郎]
2-2 健康とウェルビーイング [田中結香]
2-3 国際生活機能分類(ICF)とノーマライゼーション [田中結香]
2-4 プライマリヘルスケア(PHC) [望月宗一郎]
2-5 ヘルスプロモーション [望月宗一郎]
2-6 持続可能な開発目標(SDGs) [河西美生・馬渕路子]
2-7 健康日本21 とスマート・ライフ・プロジェクト [馬渕路子・河西美生]
第3章 社会環境と健康
3-1 健康の社会的決定要因(SDH)と健康格差 [石﨑順子]
3-2 物理的環境と健康 [関 美雪]
3-3 労働と健康 [石﨑順子]
3-4 学校と健康 [上原美子]
3-5 食と健康 [内山真理]
3-6 テクノロジーと健康 [名村駿佑]
3-7 コミュニティ/公共空間の健康―人々を健康にするまちづくり [柴田亜希]
3-8 地域包括ケアシステム [柴田亜希]
第4章 健康生活支援に必要な健康行動を引き出す力
4-1 ヘルスリテラシー [望月宗一郎]
4-2 レジリエンス [渡邉多恵子]
4-3 首尾一貫感覚(SOC) [望月宗一郎]
4-4 パラダイムシフト [望月宗一郎]
第II部 人々の生涯に寄り添う看護
第5章 ライフコースアプローチ
5-1 ライフコースアプローチとは [佐藤美由紀]
5-2 ライフコースアプローチの理論的背景 [佐藤美由紀]
5-3 妊娠期から終末期までの各ライフステージの特徴―多様性を踏まえて [山下優子・成田太一・井上智代・佐藤美由紀]
5-4 ライフイベントと転換点 [井上智代]
5-5 文化と社会の影響 [井上智代]
5-6 ライフコースアプローチの実践的活用 [成田太一]
第6章 多様な健康上の課題への支援
6-1 メンタルヘルス [原田浩二]
6-2 難病・障がい [辻 育恵]
6-3 がん・慢性疾患 [穴水千尋]
6-4 特定妊婦 [篠原良子]
6-5 子ども虐待 [伊藤奈津子]
6-6 高齢者虐待 [永田文子]
6-7 認知症 [永田文子]
6-8 感染症・健康危機管理 [星 翼]
第III部 演習
第7章 コミュニティ・インサイト演習―人と環境のアセスメント
7-1 地域アセスメントの目的と意義 [渡辺真澄]
7-2 地域アセスメントの理論的基礎とフレームワーク [鈴木 茜]
7-3 地区視診・地区踏査 [間仲聰子・渡邉多恵子]
7-4 地域アセスメントにおけるデータ収集と分析の具体的手法 [氏原将奈]
7-5 地域資源―多様なステークホルダーとの協働を含む [川瀬智也]
第8章 学びの灯を灯す―クリエイティブなワークショップ手法
8-1 多様性を考えるための準備 [小川純子]
8-2 多様性を考え実感し我が事にする [坂井志織・近田真美子]
8-3 看護における多様性と包括性 [小川純子]
索引
執筆者紹介
■編集委員
渡邉多恵子 淑徳大学看護栄養学部看護学科
関 美雪 埼玉県立大学保健医療福祉学部看護学科
望月宗一郎 健康科学大学看護学部看護学科
佐藤美由紀 新潟大学医学部保健学科
小川純子 淑徳大学看護栄養学部看護学科
坂井志織 淑徳大学看護栄養学部看護学科
■執筆者(五十音順)
穴水千尋 淑徳大学看護栄養学部看護学科
石﨑順子 埼玉県立大学保健医療福祉学部看護学科
伊藤奈津子 淑徳大学看護栄養学部看護学科
井上智代 新潟大学医学部保健学科
上原美子 埼玉県立大学保健医療福祉学部共通教育科
氏原将奈 淑徳大学看護栄養学部看護学科
内山真理 埼玉県立大学保健医療福祉学部健康開発学科
河西美生 健康科学大看護学部看護学科
川瀬智也 淑徳大学看護栄養学部看護学科
近田真美子 福井医療大学保健医療学部看護学科
雀部沙絵 淑徳大学看護栄養学部栄養学科
篠原良子 淑徳大学看護栄養学部看護学科
柴田亜希 埼玉県立大学保健医療福祉学部看護学科
鈴木 茜 淑徳大学看護栄養学部看護学科
田中結香 山梨学院短期大学保育科
辻 育恵 淑徳大学看護栄養学部看護学科
永田文子 淑徳大学看護栄養学部看護学科
名村駿佑 淑徳大学看護栄養学部看護学科
成田太一 新潟大学医学部保健学科
原田浩二 淑徳大学看護栄養学部看護学科
星 翼 埼玉県庁保健医療部疾病対策課
間仲聰子 淑徳大学看護栄養学部看護学科
馬渕路子 健康科学大看護学部看護学科
山下優子 新潟大学医学部保健学科
渡辺真澄 淑徳大学看護栄養学部看護学科