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内容紹介
植物を遺伝的に改良して新品種を作り出す理論と手法を研究する植物育種学について,基礎から先端までを概観する。〔内容〕植物育種学の基礎/栽培植物の起源と進化/植物遺伝資源の開発と利用/遺伝変異の創出,選抜と固定/育種目標
編集部から
◆『朝倉農学大系』刊行のことば
現在の農学は細分化が進み,また,既存の農学各分野の領域に収まらない境界領域での研究も多くなっている.それぞれの分野を紹介した教科書類の出版も盛んである.一方,そのような状況において,農学という学問のイメージが拡散し,わかりにくくなっていることも否めない.このため,農学の基礎となる領域についてこれまでの成果を踏まえた包括的な教科書を出版することの意義は大きいと考える.本シリーズはこのような観点から,農学の基礎的・中心的な科目について,基礎から最先端の成果まで充実した内容を解説した,スタンダードかつ骨太な教科書のシリーズとなっている.
読者の対象は学部学生に留まらず,大学院生,研究者を含んでいる.学部に入った時に手に取り,読みこなしながら勉強し,大学院生,研究者になった後も折にふれ参照するような充実した内容を持ち,かつ息の長い教科書として構成されている.農学を志す者,また,若手研究者には是非手元において農学のスタンダードを学んでいただくとともに,本シリーズが境界領域や新しい農学分野開拓の礎となることを期待したい.
◆『植物育種学』について 序文より抜粋
近年の植物科学の進歩により,植物の現象を遺伝子の構造と機能との関係で理解されるようになってきた.植物育種学の発展は植物科学の進歩により支えられ,植物分子生物学や植物生理学など植物科学の基礎学問分野との融合なくして達成できない.植物育種学は,植物育種から生み出される新品種を介して,研究成果を社会実装できる特色のある学問分野である.また,植物育種学と植物育種は,国連が提唱する「持続可能な開発目標(SDGs)」に貢献することが期待されている.
本書では,遺伝学と育種学の基礎知識,作物の起源と進化,遺伝資源の開発と利用,変異の創出と選抜,育種上重要な形質に関する育種研究の成果と育種の事例について記述し,近年の植物育種学と植物育種に関連する理論や手法の進歩について紹介している.本書は,大学における植物育種学の教科書として,また植物育種学や植物育種を志す研究者の専門書として編集したものであるが,農学や植物科学の研究者にも参考書として活用していただければ幸いである.
目次
第1章 植物育種と植物育種学 ■奥野員敏
1.1 植物育種と植物育種学の定義
1.2 植物育種の発展
1.3 21世紀における植物育種の課題
第2章 植物育種学の基礎 ■倉田のり
2.1 染色体とゲノム
2.2 遺伝子と形質発現
2.3 質的形質と量的形質
2.4 生殖様式と育種利用
第3章 栽培植物の起源と進化 ■佐藤和広
3.1 野生種の環境適応
3.2 栽培植物の誕生と多様化
3.3 栽培植物の分化と伝播
3.4 栽培化過程における形質変化
3.5 今後の課題
第4章 植物遺伝資源の開発と利用 ■奥野員敏
4.1 植物育種と遺伝資源
4.2 遺伝資源の収集と保全の重要性
4.3 多様な遺伝資源を利用した植物育種
4.4 遺伝資源に関する国際情勢
第5章 遺伝変異の創出 ■村井耕二
5.1 交雑による変異
5.2 染色体およびゲノム操作による変異
5.3 細胞質置換による変異
5.4 人為突然変異
5.5 遺伝子組換えによる変異
第6章 遺伝変異の選抜と固定 ■矢野昌裕
6.1 自殖性作物の育種法
6.2 他殖性作物の育種法
6.3 栄養繁殖作物の育種法
6.4 DNAマーカー選抜育種法
6.5 ゲノミックセレクション
第7章 育種目標 ■佐藤 裕
7.1 早晩性と収量性
7.2 非生物的ストレス耐性
7.3 耐病性と耐虫性
7.4 品質と成分特性
索 引
コラム目次
気候変動と気候変化
顕性・潜性
交配技術
世代促進
執筆者紹介
■編集者
奥野員敏 前筑波大学生命環境系
■執筆者(執筆順)
奥野員敏 前筑波大学生命環境系
倉田のり 前情報システム研究機構国立遺伝学研究所
佐藤和広 岡山大学資源植物科学研究所
村井耕二 福井県立大学生物資源学部
矢野昌裕 農業・食品産業技術総合研究機構
佐藤 裕 前農業・食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センター